カレントテラピー 31-8 サンプル

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Current Therapy 2013 Vol.31 No.8 87855Ⅱ 歴史頭頸部癌に対する動注化学療法の歴史は古く,1950年にはKloppらが頭頸部癌に対しナイトロジェンマスタードの一種メクロレタミン(HN-2)の動注を,1959年にはSullivanらがメトトレキサートの動注とロイコボリンレスキューを組み合わせた治療法を報告している1).わが国においては1960年代に浅側頭動脈からの動注の手技が確立し,これと手術・放射線照射を組み合わせた三者併用療法が多くの施設で行われたが,治療成績は限定的なものであり,胸三角筋部皮弁,大胸筋皮弁,遊離皮弁による拡大切除再建が行われるようになると下火となっていった.一方,IVRの世界では1953年にSeldinger法が発表され,マイクロカテーテルの細径化や新たなデバイスの開発,有害事象の予防法などが進歩を続け,腫瘍の栄養血管にカテーテルを安全に,かつ超選択的に挿入することが可能となっていった.Ⅲ RADPLATこうした状況を背景に,1992年Robbinsらは新たな動注の手法を発表した2).彼らは血管へのアクセス方法としてSeldinger法を採用し,動脈カテーテルから腫瘍の栄養動脈へと超選択的に大量の抗癌剤を注入した.また同時に中和剤を経静脈的に投与し全身循環から抗癌剤を除去,並行して放射線の外照射を行った.頭頸部癌に対するこの新たな治療法はRADPLAT(RADiation+PLATinum)とよばれ,従来の治療成績を大きく上回る成績を残し,動注化学療法は再び脚光を浴びるようになった.Robbinsらは抗癌剤として白金製剤であるシスプラチンを用いた.シスプラチンは重金属プラチナの錯イオン体で,重金属アルキル化剤類似薬として分類されている.抗腫瘍効果は主にDNA鎖の架橋反応により,細胞周期への依存性が少なく濃度依存性速効性かつ遅効性(下山分類のIb群)である.すなわち,腫瘍の栄養動脈にシスプラチンを注入したときの治療効果は,初回通過時の血中濃度に多くを依存しており,腫瘍を通過後に全身循環に乗ってからの効果は,存在するものの限定的である.この性質を利用し,動注と並行してシスプラチンの中和剤であるチオ硫酸ナトリウムを静脈内投与することで,腫瘍に対する主たる治療効果を維持しつつ,同時に全身循環時の副作用を軽減することができる(図1)3).これは視点を変えると,副作用を受容可能な範囲内にとどめつつ,シスプラチンの1回投与量を大きく引き上げられることを意味する.これとマイクロカテーテルによる栄養動脈への超選択的な注入手技が組み合わさることにより,本治療法では腫瘍内のシスプラチン濃度を従来の全身化学療法の数十倍のオーダーまで高めることが可能となった.シスプラチンに対する種々の薬剤耐性は濃度上昇により貫通されることが示されており,これも治療効果に寄与している.さらにシスプラチンは放射線の増感作用を有することが知られており,腫瘍内に薬剤が残存した状態で放射線外照射を行うことで,より高い治療効果が期待できる.このように,シスプラチンは中和剤により解毒可能で投与量の引き上げが可能であると同時に放射線治療との相性が良いため,有力な抗癌剤が続々と開発されている現代においてもなお,RADPLATのキードラッグとして位置づけられている.動注DDP静注S2O3DDPS2O3DDPS2O3DDPS2O3腫瘍全身図1 大量シスプラチンによる超選択的動注療法DDP:シスプラチン,S2O3:チオ硫酸ナトリウム〔参考文献3)より引用改変〕