カレントテラピー 31-8 サンプル

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86 Current Therapy 2013 Vol.31 No.8854Ⅰ はじめに頭頸部癌は鼻副鼻腔,口腔,咽頭,甲状腺などに由来する悪性腫瘍の総称であり,部位によって発生原因や治療法,および予後が異なる.2008年の人口動態統計によると頭頸部癌は全癌の4.3%を占め,有病率は人口10万人あたり25.4人で,これらの数値は1970年代から一貫して増加傾向にある.部位ごとに男女比に差があり,鼻副鼻腔癌で男性は女性の1.3倍であるのに対し喉頭癌では22.0倍と圧倒的に男性が多い.2011年の頭頸部悪性腫瘍全国登録によると原発部位は口腔が最も多く,以下喉頭,下咽頭,中咽頭,鼻咽頭,鼻腔,上顎洞と続く.また,組織型は口腔および中下咽頭では圧倒的に扁平上皮癌が多く95%以上を占める一方,鼻咽頭や上顎では70%程度にとどまり,鼻腔では35%まで減少する.鼻咽頭では悪性リンパ腫が,鼻腔では悪性黒色腫が多く,上顎癌では多様な組織型が分布する.本稿で対象とするのはこれら頭頸部癌のなかでも副鼻腔癌,中下咽頭癌,喉頭癌である.この領域は発声や咀嚼,嚥下,味覚,嗅覚といった社会生活を送るうえで重要な機能が集中しており,また顔面の形態の維持や表情の形成を行う部位でもあることから,たとえ根治手術が可能であってもそれによる生活の質(QOL)の減損が著しい.その一方で放射線化学療法への反応性が良好な扁平上皮癌が多くを占めている部位でもあり,根治性と機能温存性のバランスがとれた動注化学療法が最も有用な領域のひとつと考えられる.頭頸部癌に対する動注化学療法吉田大介*頭頸部癌の動注化学療法は,マイクロカテーテルを用いた局所への集中的な抗癌剤の投与と放射線外照射を組み合わせた治療である.既存の放射線化学療法とは異なり,限局した範囲に高い治療効果を発揮する一方で,遠隔転移は主な治療対象とならない.局所進行癌に対して高レベルで根治性と機能温存性のバランスがとれた治療法であるため,機能的・美容的な観点から根治手術によるQOLの減損が著しい頭頸部癌の領域では切除不能症例はもちろん切除可能進行癌においても有用な代替療法であると考えられており,特に上顎洞や中下咽頭を原発とした扁平上皮癌がよい適応である.本治療は症例を慎重に選び,適切な手技で運用すれば標準治療を大きく上回る成績が期待できる一方,そのための統一的な治療指針がなく,治療だけが急速に普及している現状は問題視もされている.現在,本邦ではいくつかの多施設共同試験を通して標準的な治療プロトコールの策定に向けた作業が進んでいる.* 北海道大学大学院医学研究科医学専攻病態情報学講座放射線医学分野画像診断の進歩―最新技術とその臨床応用