カレントテラピー 31-6 サンプル

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10 Current Therapy 2013 Vol.31 No.6568著明に線維化した.これらの結果は純粋に尿細管上皮細胞のみを障害することで間質の線維化が起こり得ること,また急性腎障害(acute kidney injury:AKI)が繰り返し起こるとCKDへと進展することを示しており非常に興味深い.・上皮?間質クロストーク:障害上皮が線維化を加速させるでは障害された尿細管上皮細胞はどのようにこの線維芽細胞からαSMA陽性myofibroblastへの形質転換にかかわり,かつ線維化を促進するのだろうか.Yangらは複数の尿細管障害モデルにおいて,障害された尿細管上皮細胞では細胞周期がG2/M期で停止している細胞が増加しており,細胞分裂の中間期から分裂期へと進むことができず正常な回復機構が働いていないことに加えて,これらの細胞がTGF -βやCTGFなど線維化を促進する因子を大量に産生することが線維化につながることを見出した12).実際CDK1阻害薬やパクリタキセルにより尿細管上皮細胞をG2/M期に停止させると線維芽細胞増殖に関与する遺伝子の発現が増強し,逆にp53阻害薬などでG2/M期での停止を解除するとこれらの遺伝子発現は正常化することを報告している.一方,Kalluriらのグループは腎線維化におけるエピジェネティクスの関与を検討している13).彼らはヒト腎線維化におけるメチル化に関与する遺伝子のスクリーニングを行い,RASAL1の高度メチル化が線維化を持続させることを明らかにした.RASAL1は前癌遺伝子であるRasを抑制することが知られている.高度にメチル化した遺伝子配列は発現が抑制されることから,RASAL1によるRasの制御が効かなくなることで線維芽細胞増殖が起こることが考えられる.さらに彼らはマウスの初代培養線維芽細胞にTGF -βを投与する実験を行い,早期にはRASAL1の遺伝子発現が抑制されるのみでメチル化はされておらず,投与5日後にはRASAL1がメチル化されていることを示している.この結果はTGF -βが早期は転写レベルでRASAL1を抑制し,その状況が持続するとエピジェネティックにRASAL1を抑制することを示唆している.これらの結果は,線維化がある程度持続すると不可逆性の病態へと移行し,その原因を除去しても遷延してしまう機序の一端を説明するものであり興味深い.Ⅲ 治療の展望腎障害の進展,具体的には間質の線維化は複数の細胞群間での多様なクロストークにより誘導される病態であることが徐々に明らかになっており,これらのクロストークに細胞レベルあるいは分子レベルで介入する試みが多くなされている.そのなかのひとつとして腎尿細管間質の線維化に中心的な役割を果たす液性因子であるTGF -βを標的とした治療が盛んに検討されている14).TGF -βは線維芽細胞をEPO産生能を回復したmyofibroblast神経堤由来細胞の機能不全が,線維化と腎性貧血を引き起こす健康な腎臓線維化と腎性貧血EPO発現を回復した腎臓EPO産生能を持った神経堤由来線維芽細胞健康な尿細管EPO腎障害線維化と腎性貧血を共に回復する治療法タモキシフェン障害尿細管EPO産生能を失いmyofibroblastに変化腎性貧血だけでも回復する治療法デキサメタゾンneurotrophinEPO図 腎線維化と腎性貧血