カレントテラピー 31-6 サンプル

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Current Therapy 2013 Vol.31 No.6 9567振る舞いがどのように変化しEPO産生が低下するのかというメカニズムなどには不明な点が多かった.3 腎の線維芽細胞は神経堤由来でありEPO産生細胞もそこに含まれる1974年Le Douarinらはウズラの神経管をニワトリの胚に移植する実験を行い,ウズラの神経堤由来の細胞がニワトリの腎臓の間質に存在することを報告している7).神経堤は脊椎動物の胚で一過性に神経管の背側に出現する細胞集団であり,形成された後すぐに全身の臓器へと遊走し,末梢神経やメラニン産生細胞,副腎髄質などさまざまな細胞に分化する.これらの報告とEPO産生細胞が神経細胞の性質を有することから,われわれは神経堤とシュワン細胞でCreを発現するProtein 0(P0)- Creマウス8)とCre存在下で蛍光タンパク質(ECFP)を発現するマウスを用いて,神経堤由来細胞の系譜追跡実験を行った9).その結果,腎臓の皮質および髄質外層の線維芽細胞の約98%がP0-Creで標識される細胞(以下P0細胞)であり,その一部がEPO産生細胞であることを証明した.4 腎線維化と腎性貧血はP0細胞の機能不全により発症する一連の病態である腎線維芽細胞の大半がP0細胞として標識されたマウスに一側尿管結紮,葉酸腎症,長時間の虚血再灌流などといった線維化モデルを惹起したところ,αSMA陽性myofibroblastのほとんどすべてがP0細胞であることが確認された.同時にこの線維化の過程においてEPO産生細胞もαSMA陽性myofibroblastへと形質転換し,それとともにEPO産生能が低下すること,および形質転換後も貧血にすることでEPO産生能を誘導可能であることも確認された.これらの結果はαSMA陽性myofibroblastの由来は元から存在していた線維芽細胞由来であるという③の説を支持するとともに,「線維化」と「腎性貧血」が同一の細胞の機能障害による病態であることを証明するものである8).5 P0細胞は可塑性を有する細胞集団でありCKDの治療標的になり得る前項で述べたごとく,EPO産生細胞はαSMA陽性myofibroblastに形質転換するとEPO産生能を失うが,貧血を誘導することでEPO産生能を取り戻すことから,適切な治療を行うことでEPO産生能を回復させる可能性が示唆される.EPO産生細胞は腎臓と神経の両方の細胞の性質を有することから,われわれは腎保護因子および神経保護因子を中心に治療薬の探索を行った.αSMA陽性myofibroblastの初代培養細胞を用いた検討では低用量のデキサメタゾン,neurotrophin,brain-derived neurotrophicfactor(BDNF),HGFでEPOの発現が増加することが確認された.また一側尿管結紮モデルマウスにエストロゲン受容体作動薬であるタモキシフェンを投与するとEPO産生低下および線維化が抑制されることを見出した.近年,同じエストロゲン受容体作動薬で,現在日本においても閉経後の骨粗鬆症薬として用いられるラロキシフェンを投与された患者は,対照群に比較して腎機能低下が抑制されたとの報告もあり10),エストロゲン受容体作動薬の腎保護作用が期待される(図).Ⅱ 尿細管上皮細胞障害と腎線維化線維芽細胞がαSMA陽性myofibroblastへと形質転換するメカニズムについては不明な点が多いが,近年遺伝子改変動物の進歩などにより腎臓の実質細胞および腎臓に浸潤してきた炎症細胞がこの過程に関与することが示唆されている.そのなかでも障害された尿細管上皮細胞の腎線維化における役割が注目を集めている.Bonventreらのグループは腎臓の前駆細胞由来の尿細管上皮細胞をすべて永久標識するSix2-CreマウスとCre誘導性ジフテリア毒素受容体発現マウスを用いて,ジフテリア毒素の量を調節することで近位尿細管上皮細胞のみを任意の時点で特異的に障害するモデルを作成し,尿細管上皮細胞障害と線維化の関係を検討した11).このマウスに非致死量のジフテリア毒素を単回投与すると炎症細胞浸潤と尿細管上皮細胞の増殖が認められ,障害は完全に回復したのに対し,1週間間隔で3回ジフテリア毒素を投与すると尿細管は障害から回復することができず間質は