カレントテラピー 31-6 サンプル page 18/32
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カレントテラピー 31-6 サンプル
68 Current Therapy 2013 Vol.31 No.6626Ⅱ 後腎を用いた腎臓再生胎児期の腎臓原基である後腎(metanephros)は,昔から腎臓再生のツールとして研究に用いられてきた1)~6).ラットの後腎を同種ラットの体網に移植すると,レシピエント側から移植後腎へ血管が侵入し,成熟した糸球体および尿細管構造をもった尿産生能を有する腎臓が発育する1).この腎臓は両腎摘出したラットの生命予後を伸ばすことが知られている1).この発育後腎はEPOおよびレニン産生といった腎内分泌機能をもち3),4),ブタ後腎を免疫不全マウスおよび免疫抑制剤を投与したマウスへ移植した場合でも,同様に発育することが知られている5),6).われわれは近年,異種後腎がニッチを提供することで内因性間葉系幹細胞(mesenchymal stemcells:MSCs)をEPO産生組織へと分化させることに成功している7).種特異的プライマーを用いたPCRおよびシークエンスにより,ラット後腎をマウスへ移植した場合には,移植後腎はレシピエント側のEPOを産生することが明らかになった.また,自殺遺伝子を導入したER -E2F1トランスジェニックマウスの後腎を用いることで,レシピエント動物由来のEPO産生組織をつくり出すことに成功した.これらの結果は,異種の後腎がレシピエントの幹細胞をEPO産生組織に分化させるニッチとなることを示しており,後腎を用いることでレシピエント由来の腎組織を構築することが可能であることを示唆している.また,近年,マウス妊娠11.5日の胎仔の後腎より作成した細胞懸濁液から分離した細胞を培養することで腎臓様構造を再構築し8),9),それをラットの腎被膜下に移植することで血管系が構築され発育が継続し,糸球体や尿細管およびEPO産生細胞をもつ成熟した腎臓構造をもつことが明らかとなった9).これは,1つの腎臓をつくるわけではないが,胎児期の細胞を利用することで,後天的にネフロン数を増加させ,腎機能を改善することができる可能性があることを示唆している.現状では実際に異種胎児の腎臓を利用することには倫理面や拒絶反応などの問題があるが,後述するようにiPSCsから後腎に含まれる腎臓前駆細胞へ分化が可能になれば,この手法で腎機能を回復することが可能となるかもしれない.Ⅲ 異種胎仔を用いた腎臓再生われわれの研究室では,異種胎仔とヒトMSCsを用いて,尿産生能やEPO産生能をもつ移植可能な腎臓を再構築することを試みている.MSCsは多能性幹細胞とは異なり,間葉系に属する骨芽細胞,軟骨細胞,脂肪細胞,筋細胞などの細胞に分化可能な幹細胞multipotent stem cellであるが10),間葉系以外の肝細胞や神経細胞などにも分化できることが知られている.また,過去にはヒトMSCsは異種である羊胎仔内に注入しても多分化能を維持することがわかっていることから10),われわれは異種の胎仔内にヒトMSCsを移植することでヒト細胞由来の腎組織をつくることを考えた.胎児の腎原基である後腎は,後腎形成間葉がグリア由来神経栄養因子(glial -derived neurotrophicfactor:GDNF)を分泌しウォルフ管から尿管芽を引き込むことで発生する11),12).そこで,胎児の腎臓がヒトMSCsが腎組織を形成するためのニッチになるかを確認するため,われわれはGDNFを遺伝子導入したヒトMSCsを胎生11.5日のラット胚の後腎間葉部分に注入し,48時間全胚培養した後にその後腎を摘出し,24時間器官培養した13).その結果,ヒトMSCsはラット後腎に取り込まれ,糸球体ポドサイト,尿細管上皮,間質細胞に分化した.これは,異種胎仔がヒトMSCsが間葉上皮転換を起こしネフロンへ分化するためのニッチとなり得ることを示唆しており,異種動物のなかでヒト幹細胞から新しいヒト腎臓を再構築するという新たな可能性を見出すものであった.また,この再生腎臓をラットの体網に移植した結果,レシピエントラットから再生腎臓へ血管が侵入して再生腎臓と血管系を構築し,尿様物質を産生することを報告した14).この尿様物質は,レシピエントラットの血清尿素窒素およびクレアチ