カレントテラピー 31-5 サンプル

カレントテラピー 31-5 サンプル page 7/28

電子ブックを開く

このページは カレントテラピー 31-5 サンプル の電子ブックに掲載されている7ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「電子ブックを開く」をクリックすると今すぐ対象ページへ移動します。

概要:
カレントテラピー 31-5 サンプル

10 Current Therapy 2013 Vol.31 No.5464形成する10).ヒトのCOPD肺組織ではCD8陽性Tリンパ球やBリンパ球の浸潤が特徴的であるが11),マウスの気腫病変の形成には獲得免疫反応は必須ではないため,Tリンパ球やBリンパ球は気腫化の直接因子というよりも悪化因子として考えられる12).一方,気道においてはたばこ煙の微粒子により活性化されたdanger signal→inflammasome→IL-1βの経路は,腫瘍増殖因子(transforming growth factor:TGF)-β産生を刺激して線維化反応を誘導する10).マウスやラットではたばこ煙による気道の線維化に自然免疫や獲得免疫反応は必ずしも必要ではなく,無炎症状態においても気道の線維化は起きることが知られている13).このようにたばこ煙により肺胞壁では気腫化,気道壁では線維化が生じるが,肺胞壁においても線維化による修復機転は生じている.確かにたばこ煙曝露早期のマウスでは肺胞壁でも気道壁と同様に線維化遺伝子が発現しているが,たばこ煙曝露を継続するとその後は肺胞壁の線維化遺伝子の発現は抑制されてしまう.したがってたばこ煙による障害に対して気道壁ではover - repair,肺胞壁ではunder -repairな状態であると考えられる.肺胞壁ではたばこ煙に対してunder - repairとなる理由として,COPD患者の肺線維芽細胞では,細胞増殖,エラスチン産生,TGF -βに対する反応性,keratinocytegrowth factor(KGF)やhepatocyte growth factor(HGF)の産生能力が低下していることが報告されている14).また,たばこ煙に含まれるオキシダントやカドミウムがトロポエラスチンの重合に必要なリシル酸化酵素(lysyl oxidase)活性を低下させてエラスチンの合成を抑制することも報告されている15).さらにたばこ煙は肺胞上皮細胞や線維芽細胞の老化を誘導するが,肺線維症では肺胞上皮細胞が老化して上皮の再生が抑制されているのに対し,肺気腫では主に間葉系細胞が老化するために線維芽細胞の増殖が抑制されているという仮説も提唱されている16).この仮説では,肺線維症では肺胞上皮細胞の老化によりWnt/Notchシグナルが活性化されて肺線維芽細胞の増殖が刺激されているが,肺気腫では不活化しているために線維化が抑制されると考えられている.呼吸運動に伴う機械的ストレスも肺気腫の発症機序に関与している.胸腔内の陰圧度が高い肺の上葉では,肺胞が周囲に牽引されるために肺の気腫化が生じやすいが,肺の全体構造を弾力性のあるスプリング(肺胞)の集合体とみなすと,エラスターゼにより断裂した肺胞の周囲に呼吸運動の機械的ストレスが集中し,個々の気腫病変が次第に拡大・融合していく過程をうまく説明できる17).IL-1β好中球マクロファージエラスターゼTGF-βたばこ煙気道線維化dangersignalリンパ球肺気腫under-repair好中球マクロファージリンパ球?over-repair図1齧歯類のたばこ煙曝露による肺の気腫化と気道の線維化機序点線の矢印で示した経路はげっ歯類においてはたばこ煙による気腫化と線維化に必須ではない.