カレントテラピー 31-5 サンプル

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Current Therapy 2013 Vol.31 No.5 9463したガス成分と不完全燃焼により残留した粒子成分に分けられるが,たばこ煙の化学物質の90%以上を含むこの粒子成分がCOPDの主な原因物質だと考えられている3).紙巻きたばこ1本の燃焼から発生する主流煙には15~40mgの微小粒子状物質が含まれるが,1日20本吸う喫煙者では非喫煙者が一般環境大気から吸入する粒子(ディーゼル排気粒子など)の2,000~6,000倍の粒子量を吸入することになる3).さらに,1日20本の喫煙を50年間継続した場合の生涯の粒子吸入量は5~15kgに達する.環境大気中の粒子には,破砕や研磨により発生するシリカや鉱物などの無機粉塵とたばこ煙やバイオマス煙などの植物や,ディーゼル排気粒子などの化石燃料の不完全燃焼から生じた有機粉塵とがある.たばこ煙の粒子の特徴は,①非常に高濃度であること,②曝露期間が長いこと,③微小~超微小粒子が多く,肺の末梢まで到達すること,④燃焼による不完全酸化物(オキシダント)が多量に含まれていること,⑤主成分の炭素のほかにナフタレン,アントラセン,フェナントレン,ベンゾピレン,鉄,カドミウムなどの多環芳香族炭化水素や金属が含まれていること,である.特にオキシダントはたばこ1吸入あたり1015?17個が含まれており,たばこ煙による肺障害の主要な原因物質である.以上のように,COPDの原因はたばこ葉などの不完全燃焼により生じたオキシダントを含む高濃度の微粒子を長期間吸入することであると理解される.ケイ酸,金属,鉱物などの無機粉塵も肺気腫や肺線維症の原因になるが,たばこ煙が無機粉塵に比べて高度の気腫病変を形成する理由には上記の①~⑤のたばこ煙の特性が関係している.Ⅲ なぜCOPDは高齢者に起きるのかCOPDは加齢の影響下で発症する疾患である.すなわちCOPDの責任遺伝子(感受性遺伝子)を有するヒトがたばこ煙などの環境因子に曝露され続けた結果,高齢になって疾患の責任遺伝子が発現した病態と考えられる.ヒトは長い人類史のなかで進化してきたが,高齢者疾患の責任遺伝子は若齢者(時)疾患の責任遺伝子よりも自然淘汰されにくいことが知られている4).その理由としては,第一に現代以前の社会では高齢まで生き延びるヒトが少なかったため,高齢者疾患に対する自然淘汰圧が弱かったと考えられる.第二には,たとえ高齢まで生き延びても発症時期が個体の繁殖期を過ぎているために,高齢者疾患の責任遺伝子はすでに子孫に伝達されてしまっていると考えられる.第三に,高齢者疾患の責任遺伝子が若齢者(時)の生存と繁殖に有利に働く場合には,むしろ進化の過程で遺伝子プールに自然選択されていくと考えられる(拮抗的多面効果説)5).例えばCOPDの責任遺伝子としては,肺に炎症を起こしやすい変異遺伝子の存在が知られている6).このような変異遺伝子は若齢者(時)では感染症からの防御に有利なため進化の過程で自然選択的に集団内に広まったが,現代のような高齢社会ではたばこ煙による炎症を起こしやすいCOPDの感受性の素因になると考えられる7).このようにCOPDが高齢者に発症する理由は,若齢者(時)には個体の生存と繁殖に有利に働いた遺伝子(炎症性遺伝子,オキシダント産生遺伝子など)が,高齢になって不利な影響を及ぼしたためと説明することができる.Ⅳ どのような機序でCOPDが起きるのかマウスなどの動物実験の知見から,たばこ煙による肺気腫と気道線維化の分子生物学的機序は図1のように考えられている8).まず高濃度のオキシダントを含むたばこ煙の微粒子が肺胞マクロファージや気道上皮細胞,肺胞上皮細胞に働いてATP,尿酸,熱ショックタンパク(heat shock protein),highmobility group box 1(HMGB1)などのdangersignalを産生させる9).Danger signalにより刺激された細胞ではインフラマソーム(inflammasome)のカスパーゼ1前駆体が活性化してインターロイキン(IL)-1βを産生し,好中球やマクロファージなどの自然免疫細胞を活性化して放出されたエラスターゼが肺胞壁のエラスチンを破壊して気腫病変を