カレントテラピー 31-5 サンプル

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Current Therapy 2013 Vol.31 No.5 89Key words543COPDとテロメア長東京大学大学院医学系研究科呼吸器内科学教授 長瀬隆英1 はじめに慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructivepulmonary disease:COPD)を特徴づける気流制限は,気道病変(特に末梢気道病変)と肺気腫病変(肺胞壁の破壊)とがさまざまな割合で起こった結果生ずる.COPDの外因としては喫煙が最も重要であり,COPD患者の呼吸器炎症は,たばこの煙などの慢性的刺激に対する炎症反応が増強されたものと思われる.この増強のメカニズムは不明であるが,遺伝的に決定されている可能性がある.一部の患者は,喫煙していないのにCOPDを発症するが,これらの患者における炎症反応の特徴はわかっていない.肺の炎症は,肺における酸化ストレスと過剰なプロテアーゼにより,さらに増強される.これらのメカニズムにより,COPDに特徴的な病理学的変化が引き起こされる.さて近年,喫煙者の肺では異常な炎症反応が進行するとともに,テロメア長が短くなって細胞の老化が進んでいるという仮説が提唱されている.この仮説について,文献的知見を紹介しつつ概説する.2 COPDとテロメア長テロメアDNAはすべての染色体の末端に存在し,加齢に伴ってその長さが短縮することが明らかになっている.また癌や動脈硬化の患者における末梢血中の細胞のテロメア長が短縮していることが明らかになり,臨床的にもテロメア長測定の意義が注目されつつある.さて,COPD発症には加齢というプロセスが必須である.COPD患者の肺組織ではテロメア長が短縮している可能性があり,この説を支持する報告を紹介する.カナダのLeeらは,COPD患者4,271例の末梢血白血球細胞のテロメア長を測定し解析した.その結果,COPD患者のテロメア長は健常者より有意に短いことが明らかになった.またテロメア長の短縮が,癌による死亡および総死亡に相関することを報告している.一方,喫煙状態はテロメア長に影響を与えなかった(PLoSOne 2012).また,デンマークのRodeらは,46,396例の対象者の末梢血白血球細胞のテロメア長を測定し,呼吸機能との関連を検討した.その結果,テロメア長の短縮が呼吸機能の低下およびCOPD発症リスクと関連することを見出した(Thorax 2012).3 これからの展望このように,COPDとテロメア長の短縮の関連が明らかになりつつある.近年,COPDにおいては,癌や動脈硬化などの併存症の重要性が注目されている.COPDを全身疾患のひとつとして理解するうえでも,上述の仮説は魅力的である.今後は,テロメア長測定の意義をより明確にし,臨床での応用を実現化することが望まれる.