カレントテラピー 31-4 サンプル

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心不全の診断と治療の現状―最近のガイドラインの把握と臨床判断急性心不全のとらえ方と治療方針*猪又孝元大規模臨床試験に基づくevidence-based medicine(EBM)により,心不全管理の標的は長期予後へと向かった.....

心不全の診断と治療の現状―最近のガイドラインの把握と臨床判断急性心不全のとらえ方と治療方針*猪又孝元大規模臨床試験に基づくevidence-based medicine(EBM)により,心不全管理の標的は長期予後へと向かった.しかし,急性心不全では,症状の改善や心不全入院の抑制に置くべきである.急性増悪イベントを回避あるいは軽減することで,心不全全体の予後をも改善できる.望ましい急性心不全治療とはなにか.その議論では,多種多様な病態を一緒くたにする弊害,すなわち,急性心不全の病態理解が十分でない現状が浮かび上がる.初動としてのフロセミド静注が推奨治療として取り上げられたのは,長い歴史に裏づけされた経験則を重視し,エビデンス確立の動きを評価したからかもしれない.さらに,治療の一側面のみに焦点を当てるのではなく,病態全体のアウトカムを見据える態度も重要である.いずれにせよ,急性心不全治療は初動担当医の目線で推奨治療を組み立てる必要がある.それは,循環器専門医とは限らない.病態や治療ツール,さらには職種を跨いだ多方面の介入が求められる.Ⅰはじめに-反省期に入った心不全管理このほど,欧州心臓病学会(ESC)の心不全ガイドラインの改訂が行われた1).その底辺に流れる哲学として,先手を打つ管理やマルチに攻める戦略とともに,治療標的を明確にする重要性が強調された.歴史的に心不全は,まず臓器うっ血として認識され,心ポンプ機能不全に焦点が当てられた.しかし,これら血行動態を改善する治療法が,必ずしも心不全予後を改善させないことが明らかとなった.心不全という慢性進行性病態の形成には,神経体液性因子の関与が重要とされ,アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やβ遮断薬が心不全管理の主役に躍り出た.大規模臨床試験に基づくevidence -basedmedicine(EBM)の登場である.EBMによりこの十数年,心不全管理の標的は一気に長期予後へと向かった.そして,予後改善へのかけ声は,症状の改善をも凌駕し,すべての治療標的に先んずるとのパラダイムシフトだと説明されてきた.しかし,果たしてそうであろうか.例えば,起坐呼吸で搬送された重症心不全例は,呼吸困難という症状を軽減させることが,明日の命という予後を担保させることになる.これまでは強心薬を中心に,治療標的において予後改善と症状改善はイコールではない2),と強調されてきた.しかし,その後の臨床研究を紐解くと,そのような治療法は必ずしも多くなかった.さらに,急性期治療の遠隔期予後への影響を実証することが困難な現状から,症状を改善させる治療は予後改善が実証できなくとも,推奨に値するのではと考えられつつある.今回のESCガイドラインでは,心不全治療の標的を死亡というハー*北里大学医学部循環器内科学講師8Current Therapy 2013 Vol.31 No.4356