カレントテラピー 31-3サンプル page 26/30
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概要:
ADAMTS13とvon Willebrand因子国立循環器病研究センター分子病態部部長宮田敏行奈良県立医科大学輸血部准教授松本雅則血漿中のプロテアーゼであるADAMTS13は,von Willebrand因子(VWF)切断酵素であり,血栓性血小....
ADAMTS13とvon Willebrand因子国立循環器病研究センター分子病態部部長宮田敏行奈良県立医科大学輸血部准教授松本雅則血漿中のプロテアーゼであるADAMTS13は,von Willebrand因子(VWF)切断酵素であり,血栓性血小板減少性紫斑病(thromboticthrombocytopenic purpura:TTP)ではADAMTS13活性が著減する症例が多い.TTPの診断は,血小板減少と溶血性貧血の2徴候が重要視されているが,精神神経症状,腎障害,発熱を示す場合もあり,古典的5徴候として有名である.TTPでは,先天性もしくは後天性にADAMTS13活性が著減する症例が存在する.ADAMTS13活性が著減することで,強い血小板凝集能を有する超高分子量VWFマルチマーが切断されずに血中に残存し,全身の微小血管内に血小板血栓が生じる.ADAMTS13はVWFの1カ所のペプチド結合を特異的に切断してVWFマルチマーを低分子化し,VWFマルチマーの血小板凝集能を抑制する.この切断には,直線状につながったVWFにずり応力が作用して,1つのサブユニット中央部のA2ドメインの立体構造が崩れる必要があり,ずり応力依存性の切断というきわめてめずらしい機構として注目される.先天性TTPはUpshaw -Schulman症候群ともよばれ,ADAMTS13遺伝子異常のホモ接合体もしくは複合ヘテロ接合体が原因である.後天性TTP患者では,血漿中にADAMTS13に対する自己抗体が検出され,TTP患者の約95%が後天性であると報告されている.現在,ADAMTS13を補充するには,新鮮凍結血漿しか製剤はなく,ADAMTS13活性著減によるTTPの場合は,血漿療法が有効である.特に,後天性TTP患者にはADAMTS13に対する自己抗体が産生されているので,血漿交換によって酵素を補充し自己抗体を除去することで病態が劇的に改善される.ADAMTS13活性と自己抗体の測定は,TTPの診断および治療効果を判定するうえで重要なマーカーとなっている.現在までにADAMTS13遺伝子欠損(ノックアウト)マウスは,著者らを含めて2種類作成されている.このノックアウトマウスは,TTPを自然発症しないが,大腸菌O157が産生するシガ毒素やVWFの静注によりTTP様の症状を示す.ノックアウトマウスに実験的に脳梗塞や心筋梗塞を起こさせると,野生型に比べてその梗塞巣が大きくなる.さらに,このモデルに遺伝子組み換えADAMTS13を静注するとノックアウトマウスだけでなく野生型マウスでも梗塞巣が縮小することから,今後発売される予定のADAMTS13製剤の動脈血栓症への治療効果が期待されている.94Current Therapy 2013 Vol.31 No.3332