カレントテラピー 31-3サンプル

カレントテラピー 31-3サンプル page 24/30

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血栓性疾患―薬効薬理と病態生理に基づいた治療戦略の展開プロテインZ金沢大学医薬保健研究域保健学系病態検査学准教授森下英理子プロテインZ(protein Z:PZ)は,主として肝臓で合成されるビタミンK依存性血漿糖タ....

血栓性疾患―薬効薬理と病態生理に基づいた治療戦略の展開プロテインZ金沢大学医薬保健研究域保健学系病態検査学准教授森下英理子プロテインZ(protein Z:PZ)は,主として肝臓で合成されるビタミンK依存性血漿糖タンパク質のひとつである.1984年にヒト血漿から精製され長い間生理的意義は不明であったが,1998年にCa 2+とリン脂質存在下で活性型X因子(Xa)をPZ依存的に阻害するセリンプロテアーゼインヒビター(PZ依存性プロテアーゼインヒビター,proteinZ-dependent protease inhibitor:ZPI)が発見され,PZが再び注目されるようになった.1構造,血中濃度ヒトPZタンパクは分子量約62kDaで,その構造は他のビタミンK依存性凝固因子(Ⅶ,Ⅸ,X因子)に類似しているが,プロテアーゼ活性は全く示さない.健常人の平均血中濃度は約2~3μg/mLで,血中濃度に影響するいくつかのPZ遺伝子一塩基多型(SNP)が報告されている.PZ値は肝疾患やワルファリン服用(正常の1~16%)にて著明に低下し,経口避妊薬服用にて増加する.2 PZ/ZPI複合体によるXa阻害機序および欠損マウスからの情報ZPIは単独ではほとんどXa阻害作用を示さないが,Ca 2+,リン脂質,PZが存在するときわめて迅速にXaを阻害する.このZPIによるXa阻害作用はヘパリンにより20~100倍促進され,その際PZ,Ca 2+,リン脂質は必須ではない.一方,ZPIはPZ非依存性に活性型?因子も阻害し,ヘパリンにより阻害速度は増強する.PZ欠損マウスは正常に誕生し生育したが,血栓性素因のひとつであるFactorⅤを導入し,ホモFV Leiden/ホモPZ欠損マウスを作成すると重篤な血栓傾向を示し,胎児期あるいは生後早期の血栓症によりほとんど全例が死亡した.また,PZ欠損マウスやZPI欠損マウスでは,他の危険因子により誘発された血栓症が重症化し,その程度はZPI欠損マウスのほうがPZ欠損マウスよりも重篤であった.これらの結果から,PZおよびZPIは生理的に重要な凝固制御の役割を果たしていることが示唆される.3 PZと血栓症ノックアウトマウスの研究結果より,PZ欠損症は血栓症の危険因子であろうと予測され,PZ値の低下と血栓症との密接な関係を示す多くの研究報告がある.また,PZ欠損症と不育症などの妊娠合併症との関連性も認められている.しかしながら一方で,PZ低下と血栓症あるいは妊娠合併症の密接な関連性を否定する報告もあり,今後前向きの大規模臨床研究によりさらなる検討が必要であろう.92Current Therapy 2013 Vol.31 No.3330