カレントテラピー 31-3サンプル

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血栓性疾患―薬効薬理と病態生理に基づいた治療戦略の展開抗血栓薬総論*1*2戸田恵理・後藤信哉欧米諸国とわが国では,血栓性疾患の有病率は異なる.抗血小板薬のなかでも,冠動脈疾患の有病率,発症率の高い欧米で....

血栓性疾患―薬効薬理と病態生理に基づいた治療戦略の展開抗血栓薬総論*1*2戸田恵理・後藤信哉欧米諸国とわが国では,血栓性疾患の有病率は異なる.抗血小板薬のなかでも,冠動脈疾患の有病率,発症率の高い欧米では特に循環器分野での抗血小板療法が注目を集めている.特に薬剤溶出性ステントの出現により,超遅発性ステント血栓症が問題となっている.経口抗凝固薬としてはワルファリンが半世紀以上もの間,唯一の選択肢であった.ワルファリンの効果は強力であるが,個人差があり,食事や併用薬に注意し,定期的にモニタリングをすることが必要であった.これらの欠点を改善すべく,トロンビン,第Ⅹa因子などの特定の凝固因子の酵素作用を選択的に阻害する新規経口抗凝固薬が開発されている.新規経口抗凝固薬でも抗血栓薬である限り出血イベントリスクは増加する.各疾患のバックグラウンドを考慮し,今後の臨床現場においての使用経験,データ集積を継続することが必要である.Ⅰはじめにわが国の死因の第一位が出血性疾患ともなる悪性腫瘍である.第二位,第三位は心疾患,脳血管疾患であり血栓性疾患である.抗血栓薬は血栓性疾患の発症率を低下させるが出血イベントリスクを増加させる.欧米では血栓疾患としての心血管疾患が死因の第一位である国が多く,出血性疾患の多い日本とはバックグラウンドが異なるため,疾病のバックグラウンドを考慮して適応を考える必要がある.Ⅱ抗血栓薬19世紀の病理学者Virchowは血栓にかかわる因子として,1血管内皮細胞の障害,2血流のうっ滞,3血液性状の変化の寄与の重要性を提唱した.21世紀になって,細胞生物学の進歩により,体内に形成される病的血栓の多くは血小板と血液凝固反応の相互作用によって惹起されることが示された.両者は,血小板が細胞,凝固系は血漿タンパク内の現象であるとの特徴がある.血漿タンパクは,局所にて活性化構造転化を起こしても血流により希釈される.このため,血流下では凝固カスケードは効率的に作動しない.血流うっ滞部位では凝固系の関与が相対的に大きくなる.血小板細胞は血流の速い動脈系においても血管壁損傷部位に強固に接着し,局所での血栓性亢進の維持に効率的に寄与できる.血流の豊富な冠動脈内の血小板主体の脆い血栓により惹起される急性冠症候群には血小板がそこそこ重要な役割を演じる.一方で血管を閉塞して症状を起こす大きな血栓の形成には凝固系が必須の役割を演じる.*1東海大学医学部内科学系循環器内科学助教*2東海大学医学部内科学系循環器内科学教授52Current Therapy 2013 Vol.31 No.3290