カレントテラピー 31-12 サンプル

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12 Current Therapy 2013 Vol.31 No.121202た.半年前に係長に昇格し,仕事量が増え部下のマネジメントも加わったがやりがいをもって仕事をしていた.3カ月前頃から胃もたれが出現し市販の胃薬でもあまり良くならないことから,自宅近くのクリニックを受診した.問診(医療面接)から体重減少,夜間の症状はなく,診察で貧血・リンパ節腫大なく,腹部では心窩部に軽度の圧痛を認めるも腫瘤は触知せず警告因子(図2の1)はなかった.胸やけはなく(図2の2),仕事のストレスによる「慢性胃炎」としてH2ブロッカーと粘膜保護薬が処方されたが,2週間後の再診時にあまり症状の改善はなかった.さらに,詳しく症状を聞いてみると,胃もたれだけではなく会議でのプレゼン前などに腹痛のためトイレに駆け込み下痢することが多いとのことであった.ただし,職場以外では腹痛・下痢で困ることはなく,本人は胃に悪い病気がないか心配していた.通常治療で症状の改善がみられなかったので,いつも胃カメラを依頼している連携病院に検査予約をした(図2の5).1週後の胃カメラでは明らかな異常がなく機能性ディスペプシア〔食後愁訴症候群(postprandial distresssyndrome:PDS)〕と診断された.胃カメラで異常がなかったことで,本人も安心したのか胃もたれは多少軽くなったとのことであったが,会社での下痢+++--警告-因子1 23便秘型IBS混合型IBS下痢型IBS過敏性腸症候群(IBS)精密検査で異常セリアック病ギアルディア炎症性腸疾患顕微鏡的腸炎小腸細菌異常増殖結腸直腸腫瘍通常検査で異常便通異常を伴う反復性の腹痛・腹部不快感図3 便通異常を伴う反復性の腹痛・腹部不快感の診断アルゴリズム腹痛あるいは腹部不快感の特徴についてはその頻度,場所,性状,期間,放散,促進・緩和因子の側面からさらに明確にすべきである.不快感は痛みと表現はできないが不快な感覚を意味する.便通は頻度,回数,排便困難の有無のパターンによって分類すべきである.腹痛と便通変化の時間的相関の有無は重要である.〔参考文献12)より引用改変〕〈図の説明・[ ]内は筆者の注釈〉1)警告因子としては,著明な体重減少,夜間の症状,大腸癌の家族歴,血便,最近の抗生剤使用,理学的検査での明らかな異常,50歳以上,短い病悩期間(最近の発症),男性が挙げられる.警告因子がなくRome基準に合致する症例ではIBS診断の感受性は0.65,特異性は100%との報告もみられる.[本邦の診断アルゴリズム:『心身症診断・治療ガイドライン2006』では,警告因子を警告症状・徴候と危険因子に分け,前者には,発熱,関節痛,粘血便,6カ月以内の予期しない3kg以上の体重減少,異常な身体所見(腹部腫瘤の触知,腹部の波動,直腸指診による腫瘤の触知,血液の付着など),後者に50歳以上での発症または患者,大腸器質的疾患の既往歴,家族歴を挙げている.]2)通常検査としては末梢血球数,CRP,セリアック病の血清検査が挙げられる.[セリアック病の頻度が低い本邦では,血液生化学検査(血糖を含む),甲状腺刺激ホルモン(thyroid stimulating hormone:TSH),尿一般検査,便潜血検査,腹部単純X線写真がIBSの通常臨床検査とされる.]3)警告因子がある場合は精密検査を行う.2の通常血液検査に加えて,血清カルシウム値(低値は吸収不良を示唆),TSH値を測定する.検便でギアルディアや寄生虫の有無を検査する.最近の抗生剤使用者ではClostridiumdifficile 感染症を考慮する.体重減少と下痢の場合はHIVを疑いCD4陽性T細胞数を検査する.大腸内視鏡検査と粘膜組織生検を行い,結腸直腸腫瘍,顕微鏡的腸炎(collagenous colitisを含む)を調べる.カプセル内視鏡も必要に応じて行う.