カレントテラピー 31-12 サンプル

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Current Therapy 2013 Vol.31 No.12 11機能性消化管障害(FGID)の診断と病態1201実情にあった診断アルゴリズムが提示されることが期待される.2 症例30歳後半,女性,事務職.主訴:胃のもたれ感.家族歴:父が大腸癌で手術.現病歴:大学卒業後,現在の企業に勤めるようになってから,胃のあたりのもたれ感が時々みられたため市販の胃薬を飲んでいた.1年前の定期健康診断での胃透視検査では特に異常がなくほっとしてい胃食道逆流症ピロリ菌感染によるディスペプシア132 4 56慢性・反復性の・食後のもたれ感・早期飽満感・心窩部痛・心窩部灼熱感追加検査が不要な機能性ディスペプシアディスペプシア通常治療で症状改善上部消化管内視鏡検査で異常除菌で症状改善消化性潰瘍悪性疾患食道炎ピロリ菌除菌適応頻回な「胸やけ」共存除菌で症状改善ピロリ菌陽性症状に合致する器質的疾患警告因子PPIで症状改善+++++++++-- ------+--図2 反復性ディスペプシアの診断アルゴリズムRomeⅢではディスペプシアを4つに絞り,そのなかで一つ以上の症状がある場合をディスペプシアありとする.糖尿病や膠原病などの全身性あるいは器質的疾患がないことが前提となる.内視鏡検査などの追加検査がなされない場合は未検査ディスペプシア患者となる.追加検査によって約70%は器質的原因が同定されず,機能性ディスペプシアと診断される. 〔参考文献11)より引用改変〕〈図の説明・[ ]内は筆者の注釈〉1)十分な問診(医療面接),理学的検査から警告因子の有無を判定する.警告因子としては,年齢,意図しない体重減少,症状による夜間の覚醒,嚥下困難,リンパ節腫大,腹部腫瘤,貧血徴候が挙げられる.警告因子が存在する場合は適切な内視鏡検査の適応となるが,その頻度は比較的低い.2)週あたり数回以上の胸やけ(胸骨後部のやけるような不快感)がある場合は頻回な胸やけ共存とみなす.3)ディスペプシア症状に胃食道逆流症が合併し,適切な胃食道逆流症への治療で症状が改善することがよくある.プロトンポンプ阻害剤(PPI)による薬物治療が一般的である.4)米国消化器病学会などのディスペプシア治療ガイドライン・戦略では,ピロリ菌を除菌する診断的治療が推奨されている.呼気テストや便中抗原検査でピロリ菌陽性の場合は除菌治療をすると費用対効果が高く,ピロリ菌感染率が高率の場合はこの治療法が適切であるとされている.[本邦の保険医療ではピロリ菌の有無を検査する場合には,まず上部消化管内視鏡検査を実施することが要件となっているため,特に実地医家ではこのステップは現実的ではないかもしれない.]5)通常治療はその地域で使用でき有効であるとされる薬物療法となる.制酸薬,酸分泌抑制薬,消化管運動機能改善(賦活)薬などが挙げられる.6)機能性ディスペプシアはもたれ感,飽満感のように食事に関係する食後愁訴症候群(PDS),心窩部の痛み・灼熱感からなる心窩部痛症候群(EPS)に分類される.両者が合併オーバーラップする場合もある.EPSあるいはオーバーラップではPPIが推奨される.PDSでは有効性の報告がみられる消化管運動機能改善(賦活)薬を使用する.効果がない場合は薬剤をスイッチするか併用する.PPIで改善しないEPSでは低用量の三環系抗うつ薬を試す.運動機能改善薬が無効なPDSでは胃底部弛緩作用をもつbuspironeの使用を考慮する.[本邦ではPPIは機能性ディスペプシアには保険適用がないこと,buspironeは使用不可能であり個別の工夫が必要となる.buspironeと同系列で使用可能な薬剤はタンドスピロンであり,機能性ディスペプシアに有効との本邦報告がある.]これらの治療で症状改善がみられた場合は継続治療となるが,そうでない場合は追加検査を考慮する.血液検査がなされていない場合は,末梢血球数,肝機能検査,アミラーゼ・リパーゼ値,腎機能検査を行う.このタイミングで血液検査をする有用性のエビデンスは不明であるが,多くの臨床家が考慮する.[本邦では5の時点で症状改善がみられない場合は血液検査を実施するのが一般的と思われる.]また腹部超音波検査,腹部CT検査,食道内pHモニタリング,胃排出試験も挙げられる.胆道・膵臓系の異常,血管病変,胃食道酸逆流,胃排出遅延などが検出可能であるが,現状では各検査での異常と治療における重要性は必ずしもはっきりしない点がある.CT検査を繰り返すことは避ける.この段階まできたら,不安やうつなどの心理社会的因子の関与を考慮すべきであり,場合によっては専門家にコンサルトする.