カレントテラピー 31-12 サンプル

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Current Therapy 2013 Vol.31 No.12 71197機能性消化器疾患― あたらしい診療戦略―企画防衛医科大学校長三浦総一郎機能性消化器疾患は,現在大変注目を集めている疾患群といえる.いわゆる器質的な異常が見当たらないのに,器質的な疾患と同様のあるいはそれ以上の消化器症状が出現して,患者さんを大いに悩まし生活の質(QOL)を損なう,いわゆる「機能的な」疾患ということでこのような名称が付けられた.そもそも腹部消化器臓器の機能は,「腹立たしい」「腹がすわった」「腹に据え兼ねる」「片腹痛い」など非常に多くの言葉が表すように,われわれの感情,特にストレスと大いに関係があるのではないかと,古来より考えられてきた.しかし,機能性の消化器疾患の概念は今まであまりに漠然としすぎており,非常に多くの患者populationを抱えながらも長い間,医学研究の一線から遠ざけられていた.それにもかかわらず,実際には多くの薬剤や治療法が医療従事者により試されてきており,医療費高騰の原因のひとつにもなっていたといえる.その疾患アプローチを世界的に急激に進歩させたのが,20世紀の終わりから続くRome委員会と,いわゆるRome基準の功績であることはいうまでもない.これにより,曖昧模糊としていた機能性消化器疾患の概念が確立され,世界的な基準で科学的に解明されていくきっかけとなったわけであり,その影響は計り知れない.現在では診断法のみならず治療法も体系づけられてきており,大いに患者さんの福音となっている.また,種々の研究成果から,機能性消化器疾患は単に消化器の局所的な異常にとどまらず,ストレスを契機とした中枢を含めたわれわれの生理統合機能に起こる変調であるという解釈もなされている.しかるに考えてみれば,器質的な異常もないのに,機能的にせよ何か障害が生じるというのは誠に不思議な話である.正確には,われわれのまだ気づいていないどこかの分子レベルの障害が惹起されており,それにより一連の症状が生じていることは間違いないであろう.実際に,現在は種々の機能性消化器疾患について,疫学・分類・診断基準や推奨される標準的治療などが,ある程度は理解され整備されてきた段階であり,世界中の研究者の眼は少しずつ病因病態に迫る物質あるいは分子の探求に向けられつつある感がみられる.しかし,それらをしっかりと説明できる証拠はいまだ得られていない状況であり,今後の多くのエポックメーキングな仕事が出現することが期待されている.そしてRome基準や標準治療法もそれらの新しい知見をもとにして書き換えられていくであろうと思われる.本特集ではこのような流れを踏まえ,現時点でのスタンダードな,しかも最も新しい機能性消化器疾患について多方面から解説していただいた.執筆に際しては実地医家の先生方にもわかりやすいように心がけていただいたので,是非,今後の疾患コントロールに関するヒントとなるアイデアを,各先生なりに読み解いていただければ幸いである.エディトリアル