カレントテラピー 31-12 サンプル

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88 Current Therapy 2013 Vol.31 No.121278FGIDにおける遺伝子多型の意義岩手医科大学医学部内科学講座消化器内科消化管分野准教授 千葉俊美遺伝子多型とは遺伝子を構成しているDNAの配列の個体差であり,集団の1%以上の頻度であるものと定義されることが多い.遺伝子多型はDNAの配列における1カ所の塩基配列が別な塩基に変わっている一塩基多型(single nucleotide polymorphism:SNP)と,2個から4個の単位の配列が数回から数十回繰り返すマイクロサテライト多型(microsatellitepolymorphism)の2種類があり,SNPについては病気との関係や薬の効果など臨床に役立つものが見つかるのではないかと期待を集めている.機能性消化管障害(functional gastrointestinaldisorder:FGID)の疾患感受性に関与する遺伝子多型はいくつか報告されている.機能性ディスペプシア(functional dyspepsia:FD)では欧米からGNβ3 C825TがFDの感受性に関連することが報告されており,日本人においてはtransient receptor potentialvanilloid 1(TRPV1)315C/C homozygote,SCN10A,セロトニン輸送体(serotonintransporter:SERT)をターゲットとするhsa - miR - 325のpri体に存在するrs5981521や,SLC6A4の3’-UTRに高親和性を有するmicroRNA325がFDと関連する可能性が報告されている.一方,過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)に関連する遺伝子も報告されており,脳腸相関に関与するSERT遺伝子多型では,s/s 型で下痢型IBSの頻度が高く,5 - HT3受容体拮抗薬であるalosetronの大腸運動抑制効果はl/l 型に強く,大腸伸展刺激時にs/s 型で前帯状回の賦活度が大きいことも報告されている.また,SERT遺伝子のSLC6A4遺伝子多型とIBSにおける関連や,SERT遺伝子多型のrs25531がIBSのリスク要因であることも報告されている.さらに,免疫や炎症に関与するインターロイキン-10(IL-10)遺伝子多型,tumor necrosis factor superfamily 15(TNFSF15)のrs4263839遺伝子多型とIBSとの関連も報告されている.また,β3-adrenoceptor(β3-AR)遺伝子多型がIBS疾患感受性に,cholinergic receptormusucarine 3(CHRM3)遺伝子多型がIBSの病脳期間に,さらにTRPV1遺伝子多型(rs222747)がIBSの年齢と関連している可能性も示唆されている.FGIDはその原因として多因子が複雑に関与する疾患であり,遺伝要因のみならず環境因子も重要で,同じ遺伝子多型の研究であっても,国や人種によって関連性が異なることから環境要因の影響を窺うことができ,その原因遺伝子の同定は容易でないことが想像される.今後,これら遺伝子多型の解析はFGIDにおけるより客観的な診断,さらにはより適切な治療へと結びつくことが期待される.機能性消化器疾患―あたらしい診療戦略