カレントテラピー 31-12 サンプル page 27/34
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カレントテラピー 31-12 サンプル
Current Therapy 2013 Vol.31 No.12 85治療薬解説1275投与群では58.6%,600mg/日投与群では64.4%と,イトプリド塩酸塩投与群で有意に症状の改善が得られたと報告している9).Ⅳ アセチルコリンエステラーゼ阻害薬アセチルコリンエステラーゼ阻害薬は,アセチルコリンエステラーゼを阻害することで,コリン作動性神経終末から遊離するアセチルコリンの分解を抑制し,胃前庭部および胃体部でのアセチルコリンによる収縮反応を増強させる.アコチアミド塩酸塩(アコファイドR)は,本年日本において承認された世界初のFDを適応としたアセチルコリンエステラーゼ阻害薬である.Matsunagaらは,覚醒イヌにおけるクロニジン誘発胃前庭部運動低下に対しアコチアミドを投与し,胃前庭部の運動係数を有意に改善することを報告している10).また,臨床試験においても,Matsuedaらは食後腹満感・上腹部膨満感・早期腹満感のいずれかを主症状とするFD患者に対し本薬剤を使用したところ,症状改善率はプラセボ群34.8%に対し,52.2%と有意に高い改善率を示した.また,上記3症状の消失率もプラセボ群で9.0%,アコチアミド群で15.3%と有意に消失率が増加することも示している11).本剤は胃前庭部の運動亢進による胃排出能の改善に加え,胃適応性弛緩障害の改善効果を示したこともKusunokiらによって報告された12).Ⅴ オピオイド受容体作動薬FGIDに用いられるオピオイド受容体作動薬として,トリメブチンマレイン酸塩(セレキノンR)が挙げられる.本剤はオピオイド受容体であるμ・δ・κ受容体に作用するが,消化管運動に関与するのはμとκ受容体である.μ受容体は副交感神経終末,副交感神経細胞体,交感神経終末に,κ受容体は副交感神経の細胞体にのみ存在する.このような受容体分布において本製剤の作用は服用量・交感神経の興奮の程度により,消化管運動に対し促進・抑制の二面性を有している.トリメブチンマレイン酸塩は,運動亢進状態にある腸管では,副交感神経終末にあるオピオイドμおよびκ受容体に作用して,アセチルコリン遊離を抑制し,さらに消化管運動も抑制する.一方,運動低下状態にある腸管では,交感神経終末にあるμ受容体に作用してノルアドレナリン遊離を抑制する.その結果,副交感神経終末からのアセチルコリン遊離が増加し,消化管運動を亢進する.胃運動に関して,基礎実験ではモルモット摘出胃前庭部の輪状筋標本に対し,10-5g/mLで自動運動の振幅を減少させる一方,同標本の28度での不規則かつ減弱した運動に対しては頻度および振幅を増加させ,規則的な律動性収縮運動へ移行させることが示された13).ヒト胃幽門部運動に対しても,1mg/kgの静脈内投与により運動機能亢進群では運動抑制が認められる一方,運動機能低下群では運動亢進が確認されている14).また,腸管運動に関しては,IBS患者の心理ストレス負荷による大腸運動亢進に対し,300mg経口投与で運動抑制が認められ,ネオスチグミン負荷により運動亢進したヒトの回腸,上行結腸,S状結腸に対し,50mg静脈内投与で負荷前のレベルまで運動を抑制することが示されている.またモルモット摘出結腸標本に対し,10-5g/mLで筋の緊張度が低い場合(低負荷時)にはトーヌスを増加させる一方,筋の緊張度が高い場合(高負荷時)にはトーヌスを低下させ,振幅を減少させることも確認されている15).このような作用機序により,本薬剤は便秘優位型(IBS -C)のように大腸運動機能が低下している状態では腸管運動を亢進させ,下痢優位型(IBS-D)のように腸管運動機能が亢進している状態では腸管運動を抑制し効果を発現する.また,内臓知覚過敏の求心路にも作用し,内臓痛を軽減させる可能性も示唆されている.前述のように胃の運動に関しても胃運動亢進状態に対しては抑制的に,運動抑制状態の胃に対しては胃の運動亢進作用があることも示されており,FD,特に胃排出能低下と関連が示唆されるPDS症状に対しての効果が期待できる.