カレントテラピー 31-12 サンプル

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84 Current Therapy 2013 Vol.31 No.121274剤として,漢方薬である六リッ君クン子シ湯トウが知られている3).PDSにおけるもう一つの主症状は胃もたれ感であるが,胃内の食物が蠕動運動によって粥状化し,排出するといった胃運動機能の低下が主要因として考えられ,消化管運動機能調整薬が第一選択となる.IBSは腹痛や腹部不快感,便通異常を主症状とした疾患であるが,薬剤投与の際には便秘・下痢・腹痛などの優勢症状に基づき選択される.下痢型IBSの場合,主となる消化管運動機能異常は腸管運動の亢進であり,消化管運動調整薬のなかでも消化管運動抑制作用のある薬剤が第一選択となる.一方,便秘型IBS(IBS -C)では便秘の原因となる消化管運動異常の種類が異なるため,個々に適した薬剤を選択する必要がある.弛緩性便秘は大腸の緊張低下・蠕動運動の低下が原因であり,機械的下剤,高分子重合体,腸管運動を促進する消化管運動調整薬などが治療薬として用いられる.また,痙攣性便秘はストレスなどによる副交感神経の過緊張のため,特にS状結腸に便の進行を止める作用のある分節収縮が頻発し便の移動が妨げられることで,硬便が形成される病態である.このような場合,消化管運動を抑制する薬剤が第一選択となる.本稿ではFGIDの代表的な疾患であるFD・IBSを中心に,症状発現に関与する主な消化管運動異常ならびに消化管運動異常改善に用いられる消化管運動調整薬の作用機序・効果について述べる.Ⅱ セロトニン作動薬(5-hydroxytriptamine:5-HT)体内のセロトニンは約95%消化管に存在し,そのうち90%は腸粘膜のクロム親和性細胞(enterochromaffincells:EC cells)に存在する.セロトニン受容体は5-HT1~5-HT7に分類される.このうち,現在FGID治療のターゲットになっているものは主に5-HT3および5-HT4である.5-HT4受容体アゴニストであるモサプリドクエン酸(ガスモチンR)は,アウエルバッハ筋層間神経叢に作用しアセチルコリンの誘導を促し,消化管平滑筋の収縮を亢進させ胃排出能を促進し効果を発現する.Hongoらが行ったJapan Mosapride Mega Study(JMMS試験)では,プラセボを用いた二重盲検試験ではないものの,FDに対するテプレノン群とモサプリドクエン酸塩群での治療効果の比較が行われ,モサプリドクエン酸塩群で有意に症状改善効果があることが報告されている4).5-HT3受容体拮抗薬であるラモセトロン塩酸塩(イリボーR)は,主に下痢型IBS(IBS -D)に対し用いられる.大腸運動を亢進させる3型受容体の,セロトニンとの結合を阻害することで,大腸輸送能亢進あるいは大腸水分輸送異常に基づく排便亢進や下痢症状が改善する.また,大腸痛覚伝達を抑制して,内臓知覚過敏や腹痛の改善効果も認められている.しかし,現在女性に対しては保険適用がなく,男性の下痢型IBSのみとなっている5)~7).Ⅲ 抗ドパミンD2作動薬抗ドパミンD2作動薬は,コリン作動性神経にあるドパミン受容体に対して抑制的に働き,アセチルコリンの遊離を増加させることにより消化管の平滑筋収縮が促進する.ドパミンD2受容体拮抗作用とともにドパミンD1受容体拮抗作用をもつメトクロプラミド(プリンペランR),抗ドパミンD2作用が抗ドパミンD1作用を大きく上回るドンペリドン(ナウゼリンR),抗ドパミンD2・抗ドパミンD1作用に加えアセチルコリンエステラーゼ阻害(抗Ach-E)作用を併せもつイトプリド塩酸塩(ガナトンR)がFD治療薬として用いられている.実際の使用成績であるが,Zhaoらは中国のハーブ茶,ドンペリドン,プラセボをそれぞれFD患者に8週間用いた臨床試験にて,プラセボが31%に有効であったのに対し,ドンペリドンでは67%に有効であったと報告している8).イトプリド塩酸塩に関しては,HoltmannらがFD患者に対しプラセボ,イトプリド塩酸塩150mg/日・300mg/日・600mg/日を8週間用いた臨床試験を行った.その結果,プラセボ群での症状改善効果は41.2%であるのに対しイトプリド塩酸塩150mg/日投与群では56.7%,300mg/日