カレントテラピー 31-12 サンプル

カレントテラピー 31-12 サンプル page 20/34

電子ブックを開く

このページは カレントテラピー 31-12 サンプル の電子ブックに掲載されている20ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「電子ブックを開く」をクリックすると今すぐ対象ページへ移動します。

概要:
カレントテラピー 31-12 サンプル

Current Therapy 2013 Vol.31 No.12 631253胸腺・脾臓・リンパ節の萎縮,胃・十二指腸の出血や潰瘍などの変化をもたらす.ストレッサーには物理的,化学的,生物的,心理社会的なものがあるが,身体に入る刺激と身体から出る反応は一対一の関係にあるのではなく,あらゆるストレッサーに対して同様の反応を示す.心理社会的ストレスは日常生活のなかで経験する出来事であり,刺激と反応の間には個人の認知が介在している.ストレスと疾患との関わりを考えるとき,個人の認知的な評価や対応,環境と個人との相互作用も含めて考える必要がある.つまり,入力と出力の間に個々人の認知的な評定が介在していることになる.このようなストレスの捉え方をしているのがLazarusら3)の心理学的ストレスモデルである(図1).日常生活での出来事や環境から受けるさまざまな問題が存在する場合に,それが潜在的なストレッサーとして候補に挙がり,個人の認知的評定でストレスフルと評定されたときに初めて心理的ストレスとなる.心理的なストレスとなった刺激は不安,緊張などの急性ストレス反応を引き起こすが,そこにはコーピングという対処行動が生じている.この過程では,刺激やそれに対する反応が適切に処理されたかどうかについての再評定が行われる.この認知的評定→急性ストレス反応→コーピング→認知的再評定という流れが長期化して,心理面,身体面,行動面に悪影響をもたらすようになった状態が慢性的ストレス反応である.Ⅲ FGIDとストレスストレスによる腹部症状発生の病態には,ストレスを脳で感じて消化管に影響をもたらし,その一方でストレスに影響された消化管の状態が脳に影響をもたらすという双方向的な作用がある.これがストレス-脳-消化管という軸に沿った脳腸相関である.脳腸相関の詳細については他稿に譲ることにする.脳腸軸に異常をきたして機能障害や不定愁訴が生じている状態がFGIDであり,その異常は神経内分泌の破綻によるところが大きい4)~6).FGIDは診断基準であるRome Ⅲによれば,「6か月以上前から消化器疾患を疑う症状があるにも関わらず,症状を説明できる器質的,全身的,あるいは代謝性疾患のない症候群の総称」と定義されている.この病態として考えられるのは,心理社会的因子が関与して脳腸軸に異常をきたし,腸管運動機能異常,内臓知覚過敏が生じるということである.Drossman7)によるFGIDの病態モデルにおいては,遺伝・環境を含む生育歴,心理社会的因子が関与することが示されている(図2).FGIDの患者は心理社会的な問題を抱えていることが多く,それがFGIDの症状を増悪させるとともに症状を持続させ,治療抵抗性を形成するとの報告がある8).FGIDのうちFDとIBSについて日本国内で行われた調査9)によれば,RomeⅢの診断基準でみた有病率はFD 6.4%,IBS 13.1%,FD+IBS(以下混合群とする)2.9%であり,そのなかで日常生活においてストレスを感じている頻度は次のとおりであった.「常にストレスを感じている」と答えた割合はFD群45%,IBS群32%,混合群45%,対照群24%,「時々ストレスを感じる」と答えた割合はFD群33%,IBS群42%,混合群38%,対照群41%であった.総計すると約77%の患者がストレスを感じており,対照群の65%に比べ有意に高いことが示された.潜在的ストレッサー認知的評定急性ストレス反応コーピング慢性ストレス反応ストレスフル再評定コーピングの失敗図1心理学的ストレスモデル〔参考文献3)より引用改変〕