カレントテラピー 31-11 サンプル

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78 Current Therapy 2013 Vol.31 No.111170頸動脈プラークのリスクと対応―プラークの質的診断と適切な治療戦略Multiple Vessel Disease 全身血管病福岡山王病院循環器内科循環器センター長 横井宏佳脳血管疾患患者の5人に2人は冠動脈または下肢閉塞性動脈疾患を合併していたことがReach Registryで報告されている.小倉記念病院でも待機的PCI患者2,114例に対する全身血管病調査では27%に冠動脈以外の全身血管病が検出され,その内訳は下肢閉塞性動脈硬化症18%,腎動脈狭窄症5%,頸動脈狭窄症5%,腹部大動脈瘤6%の頻度であった.また,当院でPCIに成功した8,871例の長期の予後調査で5年の心臓死に関与する因子を多変量解析で分析すると,低左心機能,腎機能低下,脳血管障害,糖尿病などが有意な危険因子として挙げられた.本邦における薬剤溶出性ステント(drug eluting stents:DES)の前向きRegistryであるJ -Cypher Registryでも治療後の3年の予後では心筋梗塞の発生率3.3%よりも脳血管障害が4.4%と高率であった.このように複数の血管病を合併すると3年後の心血管イベントは高率となり予後不良となることは,Reach Registryでも報告されている.脳卒中専門医は頸動脈狭窄症が脳の病気と思いがちであるが,実は頸動脈という血管に生じる病気である.血管は冠動脈,大動脈,腎動脈,下肢動脈と全身に分布するわけであり,全身血管病と頸動脈狭窄症患者をとらえ,マネージメントすることが患者の生命予後と生活の質(QOL)の改善のために重要であることを認識する必要がある.術前評価で複数の全身血管病の合併が認識されたときに,どの血管病変から治療すべきなのかを迷うことが少なくない.われわれは生命に直接かかわる冠動脈と頸動脈を優先し症候性の部位から治療する方針としている.具体的には狭心症があれば冠動脈治療を先に,症候性の頸動脈狭窄であれば頸動脈ステントを先に行う.下肢動脈狭窄のためにアクセスルートが確保できないときは下肢動脈治療を優先する.腎動脈狭窄は治療により過度な低血圧が生じることがあり,両側の頸動脈狭窄または片側閉塞のある症例では頸動脈治療後に腎動脈治療を行う.進行性の腎機能低下に対する腎動脈狭窄治療により腎機能改善効果もあるため,Cr 2.0mg/dL以上の症例で低血圧による脳虚血の心配がなければ腎動脈狭窄治療を優先する.このように特に全身血管病合併例では治療戦略が患者アウトカムにも直結するので診療科の枠を越えたチーム医療が必要となる.