カレントテラピー 31-11 サンプル

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62 Current Therapy 2013 Vol.31 No.111154リー制限をすることによりその発現が上昇し,寿命が延長することがわかっていた.以降Sir2 は,老化抑制遺伝子として老化研究の主役として注目されるようになった.ところが,近年ヨーロッパのいくつかの研究グループが共同で,線虫やショウジョウバエのSir2 による寿命延長効果は認められないとの報告を行った6).以前の報告で使われていた,線虫やショウジョウバエの遺伝的背景に問題があり,コントロールサンプルに問題があったというものであった.さらに,Sirt1 に関してもトランスジェニックマウスでは寿命延長効果は認められていない.以来Sir2 の長寿形質について否定的な風潮となった.しかしながら興味深いことに,上記のように問題であったコントロールサンプルについて,きちんと遺伝的背景をそろえたショウジョウバエを用いた実験がなされた結果,やはりSir2 は寿命を延長し,またそのメカニズムが脂肪依存性であるとする報告7),8)や,Sirt6 トランスジェニックマウスの寿命が延長したとの報告9)が近年相次いでなされ,サーチュインは寿命を制御する分子のひとつとして考えてよいと考えられている.すなわち,上記の相反する結果が報告されるのは,老化研究の困難さを物語っており,Sir2 遺伝子の発現量の違い,細胞・組織による機能の違い,実験施設,条件やコントロールサンプルの違いによるところが多いと思われる.Ⅳ Sirt1による抗動脈硬化機構Sirt1は,NAD+依存性蛋白脱アセチル化酵素としての機能をもち,生体内のさまざまな蛋白質と相互作用することにより広範な生理機能を制御していると考えられている.レスベラトロールはアロステリックな機序でサーチュイン遺伝子と直接相互作用し,その活性を著しく増加させる.Sirt1による抗動脈硬化作用は,多数の論文で報告されている.その主なメカニズムについて紹介したい.Sirt1はNF -κBの活性化を阻害することがわかっている.Sirt1は,RelA/p65のリジン310番を脱アセチル化し,そのDNAとの結合を阻害することにより,NF -κBの活性化を阻害し,その結果,炎症や血管内皮細胞接着分子の発現を抑制する.また,Sirt1はマクロファージにおいて,Lox-1の発現を抑制し,酸化LDLの取り込みを阻害し,泡沫細胞になるのを抑制することがわかっている.さらにSirt1は,脂肪酸により誘導されるマクロファージの炎症を抑制し,TNF-α,MCP-1やILを減少させ,インスリン感受性を改善し,cyclooxygenase 2(COX-2)の発現やprostaglandinE2(PGE2)の分泌を抑制することが報告されている.逆に,Sirt1を欠損させたマクロファージは,高脂肪食を摂取したマウスの脂肪組織で,NF-κBのアセチル化が亢進し,炎症性遺伝子の発現が上昇することが報告されている.Sirt1はコレステロール排泄の面でも有益に働くことがわかっている.Sirt1は核内受容体であるliver X receptors(LXR)α,βを脱アセチル化してその活性を高め,マクロファージのコレステロール逆輸送系を亢進させる.つまり,Sirt1はLXRαを脱アセチル化してその活性を上昇させ,ATP-binding cassette transporter 1(ABCA1)を誘導し,コレステロールをpre -βHDL粒子へ変換して肝臓へ輸送,胆汁からの排泄により除去するのである.血管平滑筋におけるSirt1の過剰発現あるいはnicotinamide phosphoribosyltransferase(Nampt)を介した活性化は,p21を抑制することにより平滑筋老化を抑制,その増殖を促していることも報告されている.また,tissue inhibitor ofmetalloproteinase 3(TIMP3)は,細胞外マトリックス分解を抑制する重要な分子である.Sirt1過剰発現は,TIMP3のプロモーター活性を上昇させ,matrix metalloproteinase(MMP)を阻害し,結果的にプラークの安定化に作用するとの報告もある.また,高齢者に認められる血管変化の特徴は,血管弾性の低下である.血管弾性低下のひとつの主な原因はメンケルベルク型中膜の石灰化であり,老化促進マウスであるklotho欠損マウスでも著明な血管石灰化が起こることが報告されており,血管石灰化は動脈硬化の重要な要素である.血管平滑筋細胞に高リン刺激を行うと石灰化が誘導されるが,この石灰化は平滑筋細胞老化とともに生じ,Sirt1の過剰発現およびレスベラトロールによる活性化がp21を