カレントテラピー31-1 サンプル

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甲状腺機能低下症の一部では,血清TSH値が5~10mIU/L程度に上昇している場合があるため原発性甲状腺機能低下症との鑑別に注意が必要である.さらに,慢性甲状腺炎が疑われる場合は,甲状腺自己抗体などの検査が必要....

甲状腺機能低下症の一部では,血清TSH値が5~10mIU/L程度に上昇している場合があるため原発性甲状腺機能低下症との鑑別に注意が必要である.さらに,慢性甲状腺炎が疑われる場合は,甲状腺自己抗体などの検査が必要である.中枢性甲状腺機能低下症の原因として,リンパ球性下垂体炎が疑われる場合は,ACTH -コルチゾール系の評価と抗下垂体抗体が一助となることもある.さらに最近ではIgG4による下垂体炎も注目されている12).潜在性甲状腺機能低下症や破壊性甲状腺炎後は一過性の場合もあり,3カ月後くらいまで経過観察が必要な場合もある.また,甲状腺機能低下症により,血清LDLコレステロールやクレアチンキナーゼ(CK),アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)の変化も評価が必要である.3画像診断,心電図とTRH負荷試験など甲状腺機能低下症による循環器系への影響が少しでも疑われる場合は,胸部X線写真や心電図,できれば心臓超音波検査により心嚢液の貯留を確認することが望ましい.治療の開始にあたり,特に高齢者には冠動脈疾患の有無や動脈硬化症の評価も必要である.原発性甲状腺機能低下症と考えられた場合,甲状腺の超音波検査が有用である.その際,慢性甲状腺炎や萎縮性甲状腺炎,破壊性甲状腺炎後などの所見が得られることがある.また,中枢性甲状腺機能低下症と考えられる場合は,さらに分類で挙げたような疾患を考え間脳下垂体部のMRIをはじめとする画像診断のほか,TRH負荷試験により下垂体からのTSHの分泌能とそれに対応する甲状腺ホルモンの上昇(T3)を検討する.中枢性では,TSHの分泌反応の低下あるいは遷延反応などが認められる.視床下部性の場合には,TSHの生物学的活性が低下しT3が前値と比較して120分後でも20%以上上昇しない所見が一助となる場合がある8).近年のMRIや病理解剖の報告から,健常成人の10~15%に下垂体腫瘍があることを考えると,中枢性甲状腺機能低下症の頻度は実際に診断されているよりも高いことが予想される13).さらに中枢性甲状腺機能低下症は,機能性の下垂体腺腫による他のホルモン過剰産生の症状と他の前葉ホルモン系の障害が種々の程度で関与し複雑化する.したがって種々の下垂体前葉機能検査が必要になる場合もある.Ⅴ非甲状腺疾患(non-thyroidal illness:NTI)(Low T3症候群,euthyroid sick syndrome)非甲状腺疾患(non -thyroidal illness:NTI)は甲状腺自体に異常は認めないが,飢餓状態や低栄養,消耗性疾患で血清甲状腺ホルモンが低下した病態をいう.典型例では,血清T3のみ低下し,血清TSHとFT4値は基準値内に保たれるためLow T3症候群(低T3症候群)ともよばれる.しかし,重症化すると血清T4(FT4)やTSHも低下する.このNTIの正確な病態は,いまだ不明な点が多い.その原因として,非甲状腺疾患には種々の病態があり,神経内分泌系やサイトカインの種々の反応や他のホルモンや投与薬剤の影響があること,脱ヨード酵素や甲状腺ホルモンの代謝などがヒトとラットやマウスでは異なりモデル動物がいないことなどが挙げられる13).ヒトにおける病態としては,血中のT3値は,絶食などにより速やかに低下し,一方で血清リバースT3(rT3)が増加することは判明している.そしてこれらの変化は摂食を開始すると直ちに回復する.これらの変化と現疾患の重症度は相関するとされる.一方,血清T4については,通常の絶食(?78時間)では変化しない.しかし,長期に及ぶ飢餓状態(摂食障害など)などでは,血清FT4値も低値を示し,その低下の程度と重症度は相関する.これら非甲状腺疾患の血清ホルモンの変化には,甲状腺ホルモン脱ヨード酵素が関与していることが報告されているが不明な点が多い.脱ヨード酵素には1型(D1),2型(D2),3型(D3)が存在する.従来,非甲状腺疾患では,肝臓や腎臓のD1活性や骨格筋のD2活性の低下によるT4からT3への変換抑制が血中T3濃度の低下をもたらすと考えられてい12Current Therapy 2013 Vol.31 No.112