カレントテラピー31-1 サンプル

カレントテラピー31-1 サンプル page 22/28

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Key wordsかし,一番悩ましいのは,臨床的に遺伝子異常が強く疑われたが異常が発見できない症例である.新規の遺伝子異常をみつけるには今までの手法は,家系集積,連鎖解析による遺伝子座決定,ポジショナルクロー....

Key wordsかし,一番悩ましいのは,臨床的に遺伝子異常が強く疑われたが異常が発見できない症例である.新規の遺伝子異常をみつけるには今までの手法は,家系集積,連鎖解析による遺伝子座決定,ポジショナルクローニングによる原因遺伝子の同定であった.しかし,この手法では多数の家系集積が必要で,しかも膨大なコストがかかる.現在では,エクソーム解析による全エクソン塩基解読で80%以上の原因遺伝子が同定可能であるし,1000ドルプロジェクトに象徴される技術革新により,ヒト一人のゲノムを1000ドルで解読することで一家系のみでも原因遺伝子が同定できるという夢物語も現実化している.環境因子と甲状腺ホルモン受容体異常(転写共役因子を含む)群馬大学大学院医学系研究科応用生理学分野教授鯉淵典之甲状腺ホルモン受容体(thyroid hormonereceptor:TR)の機能は,TR遺伝子の変異で変化する.また,TRと結合するコリプレッサーやコアクチベーター遺伝子変異もTR作用に影響する.TR遺伝子変異による甲状腺ホルモン不応症については「甲状腺ホルモン不応症の病態と診断」の項を参照されたい.甲状腺機能は,遺伝子変異がなくてもさまざまな因子に影響を受ける.特に,内分泌かく乱作用を有する環境中の化学物質により影響を受けることが知られている.「内分泌かく乱」とは,ホルモンの合成,分泌,輸送,代謝,排泄そして作用のいずれかをかく乱することである.甲状腺系では,ヨードの取り込みから甲状腺ホルモン合成,血中結合タンパク,甲状腺ホルモン代謝,視床下部-下垂体における甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(thyrotropin -releasing hormone:TRH)や甲状腺刺激ホルモン(thyroid stimulating hormone:TSH)分泌など,全経路になんらかの影響を及ぼす化学物質が存在する.これらのなかにTRの機能への影響を介して作用するものがある.TRへの作用機構は2つに分類できる.ひとつはTRの合成自体に影響を及ぼす場合で,高用量イソフラボン摂取などで生じるが,環境中の残存濃度や,大豆などの食品内の含有濃度でTR合成の抑制は生じない.もう一つはTRに作用してTRを介する転写を促進または抑制する物質である.多くのハロゲン化多環芳香族炭化水素類がこの作用をもつ.TR機能に影響を及ぼす物質の作用機構はさらにいくつかに分かれている.ひとつは,いわゆる「疑似リガンド」としてT3と競合的にTRのリガンド結合領域に結合し,TR-転写共役因子結合を修飾し,作用をかく乱するもので,プラスチック可塑剤のビスフェノールA(bisphenol A:BPA)に代表される.BPAはエストロゲン様作用が有名だが,TR系ではTRとコリプレッサーとの結合を促進する.一方,絶縁オイルとして用いられたポリ塩化ビフェニル(polychlorinated biphenyl:PCB)の一部,特にPCB代謝産物の水酸化PCBはCurrent Therapy 2013 Vol.31 No.18989