カレントテラピー31-1 サンプル page 21/28
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甲状腺機能異常症―橋本病発見より100周年先天性甲状腺機能異常症の遺伝子異常獨協医科大学感染制御・臨床検査医学教授菱沼昭1953年のジェームズ・ワトソンとフランシス・クリックによるDNAの構造決定以後,遺伝子研....
甲状腺機能異常症―橋本病発見より100周年先天性甲状腺機能異常症の遺伝子異常獨協医科大学感染制御・臨床検査医学教授菱沼昭1953年のジェームズ・ワトソンとフランシス・クリックによるDNAの構造決定以後,遺伝子研究は長足の進歩を遂げ,今ではヒト全ゲノム6ギガ塩基(両アレル)の塩基配列決定も可能となった.ヒトの疾病というと,環境因子が主で遺伝因子が従であるという考えが強かったが,現在では50:50くらいの感がある.甲状腺疾患においても例外ではなく,橋本病,バセドウ病の所謂自己免疫疾患も遺伝子の関与が徐々に解明されつつある.先天性甲状腺機能異常症というとそれ自体で遺伝子が原因となっている疾患を指すが,小児科領域の重症例のみならず,成人でもみつかることが多い.遺伝子異常を示唆する症例は,他の原因がはっきりしないこと,家族歴があること,小児期発症であること,である.また,両親が血族結婚であることも大いに参考となるが,創始者効果を考えると同じ地域の出身でも構わない.例えば,サイログロブリン異常症は特定地域に特定変異が集積している.先天性甲状腺機能異常症の遺伝子解析は,まず原因遺伝子の“当たり”をつけることに始まる.先天性甲状腺機能異常症は大別して,甲状腺腫大を伴うホルモン合成障害と,甲状腺はどちらかというと萎縮する甲状腺発生障害,および間脳下垂体障害に分類される.ホルモン合成障害は,甲状腺のヨード摂取障害(NIS異常),ヨードの有機化障害(TPO,DUOX2,DUOXA2,PDS異常),ヨードの有機化障害以外のホルモン合成障害(サイログロブリン,DEHAL1異常)に分類される.また,甲状腺発生異常は,TITF1,TITF2,PAX8など転写因子異常と不活性化TSH受容体遺伝子異常がある.間脳下垂体障害は,TRH,TSH,TRH受容体異常のほか,Pit1やPROP1の転写因子異常がある.上記はいずれも機能低下症であるが,逆に機能亢進症となる異常もみられ,活性化TSH受容体異常がその代表である.また特殊なものとしては,TSH不適合分泌症候群(inappropriatesecretion of TSH:SITSH)の検査異常となる甲状腺ホルモン受容体異常,男性の精神発達遅延でT4低下T3高値となるMCT8異常症,T4からT3への活性化が低下しT4高値T3低値となるSBP2異常症がある.しかしながら,“当たり”をつけた遺伝子に異常がみつからず他の遺伝子に異常がみつかる例や,両アレル異常を予想していたにもかかわらず片アレルにしか異常がみつからない例,最悪,全く異常のみつからない例もある.われわれの経験では,難聴を伴いパークロレート放出試験陽性なのでPDS遺伝子異常を疑ったが,結果的にはTPO遺伝子異常で,難聴は事故によるもの,パークロレート放出試験陽性はヨード摂取率が低かったために偽陽性であった症例がある.また,サイログロブリン異常なので両アレル異常を疑っていたが片アレルの異常しかみつからず,後に甲状腺組織が入手可能となりmRNA解析により異常アレルのみが発現していた例もある.し88Current Therapy 2013 Vol.31 No.188