カレントテラピー31-1 サンプル

カレントテラピー31-1 サンプル page 17/28

電子ブックを開く

このページは カレントテラピー31-1 サンプル の電子ブックに掲載されている17ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「電子ブックを開く」をクリックすると今すぐ対象ページへ移動します。

概要:
abGOGGGLOFOP図1橋本病の病理所見(a:弱拡大,b:強拡大)リンパ球(L)・形質細胞浸潤(P),胚中心を伴うリンパ濾胞(G),好酸性変化(O),線維化(F)などの所見を認める(HE染色).Ⅱ橋本病の臨床経過と病態....

abGOGGGLOFOP図1橋本病の病理所見(a:弱拡大,b:強拡大)リンパ球(L)・形質細胞浸潤(P),胚中心を伴うリンパ濾胞(G),好酸性変化(O),線維化(F)などの所見を認める(HE染色).Ⅱ橋本病の臨床経過と病態橋本病の発症には,一般的な自己免疫疾患同様に種々の遺伝的素因と環境因子(感染,性ホルモン,ヨード摂取,薬剤,放射線曝露など)が相互に関与していると考えられている.本疾患では,甲状腺自己抗原に対して,ヘルパーT細胞(Th)のうちTh1が優位に反応し,細胞傷害性T細胞が活性化される.また,橋本病の濾胞上皮ではFasリガンドが発現しているが,さらにFasの発現が誘導され,両者の結合を介したアポトーシスも引き起こされる5).これらの結果,甲状腺濾胞が破壊され,甲状腺機能低下をきたす.さらに,Th2サイトカインによっても甲状腺内での自己抗体産生や間質の線維化が誘導される.甲状腺内でのリンパ球浸潤はT細胞,およびB細胞の両方が認められ,胚中心を伴うリンパ濾胞内ではB細胞が活性化される.そして,甲状腺内の形質細胞から産生される抗体は一般的に多クローン性である.また,抗甲状腺自己抗体のうち抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体はin vitroで補体との結合能を有し,病理学的に補体の複合体が甲状腺破壊像に認められることなどから6),一部は抗体依存性の細胞傷害も考えられている.これら細胞性免疫,液性免疫の反応が橋本病の病態や病理像に深くかかわっている.橋本病は,男女比が約1:10と女性に多い.また,抗甲状腺自己抗体の陽性率は年齢とともに上昇し,一般成人女性では約10%という高い頻度で認められる.橋本病診断時には,約75%は甲状腺機能正常であるが,高力価陽性群では,1年間に約5%の頻度で顕性甲状腺機能低下症に進展する7),8).また,リンパ球浸潤による慢性炎症反応,甲状腺刺激ホルモン(thyroid stimulating hormone:TSH)により受容体を介した細胞増殖およびアポトーシスの抑制も相まって甲状腺腫大をきたす.超音波所見では,リンパ球浸潤が密な部位は特に低エコー域として描出される.また,甲状腺機能低下症の進展時に甲状腺ホルモン補充療法が適切に施行されている症例では,進行性の甲状腺腫大や抗体価上昇を認める頻度は低い9), 10).このように,橋本病の主要な臨床病態である甲状腺機能低下と甲状腺腫大は,一般に緩徐な経過をたどる.橋本病の経過中に合併症で病態が変化することもある.例えば,無痛性甲状腺炎の合併では破壊性の甲状腺中毒症をきたすが,著明な甲状腺腫大や疼痛などは認めず,一過性で自然消褪する.また橋本病急性増悪では,疼痛や発熱などの炎症所見が著明で,ステロイドによる加療が必要なことが多い.このような橋本病の経過中に認められる急激な臨床病態の変化にも免疫異常の関与が考えられているが,詳細はいまだ明らかになっていない.62Current Therapy 2013 Vol.31 No.162