カレントテラピー 30-9 サンプル

カレントテラピー 30-9 サンプル page 8/28

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前立腺癌の疫学最前線群とコントロール群に無作為に分け,検診群ではPSA検査を年1回で6年間,直腸診を年1回で4年間予定し,コントロール群では通常の医療ケアが行われ,両群間の前立腺癌死亡率の比較検証が行われた....

前立腺癌の疫学最前線群とコントロール群に無作為に分け,検診群ではPSA検査を年1回で6年間,直腸診を年1回で4年間予定し,コントロール群では通常の医療ケアが行われ,両群間の前立腺癌死亡率の比較検証が行われた.無作為に分けられた両群間の死亡率に差はなかったが,PLCO研究はコントロール群のコンタミネーションの問題が大きく,RCTとしての科学的意義がきわめて限定的であるため,日本泌尿器科学会の関連するガイドライン22)~24)では,死亡率低下の証拠となる論文としては採用していない.Ⅳ日本における前立腺癌検診の臨床的意義と方向性現在の日本における前立腺癌死亡率は,女性の子宮癌の約2倍で,乳癌とほぼ同等の高さであるため,PSA検診をファーストステップとした前立腺癌対策をとることが,国民に対して公平かつ妥当な対応である.一方で,前立腺癌は高齢者(75歳以上)の死亡が多く,これまでも,また将来も増加傾向にあることが予測されているが,74歳以下の死亡数が将来は横ばいあるいは減少し,75歳以上の死亡数が増加する傾向は,肺癌,胃癌,大腸癌,膵臓癌においても同様の傾向であり,医療水準が高い先進国ではこのように高齢者での癌死が増加する現象がみられる.向こう10年間で癌死亡者の減少(75歳未満の年齢調整死亡率の20%減少)を掲げた「がん対策基本法」に基づく「がん対策推進基本計画」の全体目標は,有効な癌検診を広く普及させなくても達成可能な数字であるが,これは本質的な国民の利益とはいえない.特に,転移癌に進行してからも臨床経過の長い前立腺癌は,死亡時の年齢だけで患者個人の苦痛の程度や生活の質(QOL)低下による損失を判断することはできない.転移癌が発見,あるいは再発後に転移癌に進展した場合でも,死亡までの経過が平均5年と長いことから,長期間にわたる闘病を強いられ,そのうえ癌の進行による精神的・肉体的苦痛は大きく,検診の普及により前立腺癌の転移リスクと死亡リスクを確実に減らす意義は大きい.検診受診による不利益としての過剰診断,過剰治療,治療に伴うQOL障害については,今後,MRIなどの画像診断精度の改善や,治療前の癌の悪性度をより正確にとらえることのできる新しい腫瘍マーカーの研究が進み,さらに有用な癌の活動性の予測因子を組み合わせた過剰診断と過剰治療を避けるためのノモグラムが開発される可能性が高い.また,PSA監視療法の最適な適応症例の選別方法,適切かつ低侵襲の経過観察法が確立されれば,過剰診断と過剰治療の不利益は減少に向かうと思われる.一方,検診未実施による過少診断の不利益は,特に転移癌症例に対しては,治療の進歩によっても予後やQOLの改善効果は限定的であり,現時点で過少診断による不利益を減らすための有効な対策はない.死亡率低下効果という最も重要な利益が明らかになったPSA検診は,すべての市町村の住民検診や,すべての人間ドックなどの個人検診において受診機会を提供すべきである.罹患率と死亡率には人種差があるため,わが国において住民検診でPSA検診を導入する際は,日本独自の死亡率低下効果の検証研究が必須であるとの意見が一部にある.しかし,PSA基礎値が人種,年齢,家族歴を超える,世界共25通の前立腺癌罹患危険因子であると証明)されていることから,この意見は適当ではない.日本と欧米において,全く同じ検診システム(PSA検診間隔や受診対象年齢など)を採用した場合,日本人では費用対効果比が高くなる.しかし,世界共通の前立腺癌罹患危険因子であるPSA基礎値に応じた検診受診間隔の設定を行えば,日本においても欧米と同等の費用対効果比の検診システムの確立は可能である.しかし一方で,わが国も医療先進国として本分野で世界をリードするため,理想的な検診システムを検証するためのPSA検診のデータベースの整備と疫学研究の推進は重要である.公益財団法人前立腺研究財団が研究助成をしている前立腺がん検診研究26班(班長:田中啓幹)の対照研究)は,RCTで証明されたPSA検診の死亡率低下効果が,日本の実社会でも還元可能であるか否かを検証する,実践的な疫学研究としてきわめて重要な役割を担っている.また対照研究のデータベースを用いて,前立腺癌検診の費用対効果比の検証や,最適な検診受診間隔,受Current Therapy 2012 Vol.30 No.987911