カレントテラピー 30-7 サンプル

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いないが,「消渇」という疾患概念でとらえられている.BC200年ころ中国前漢時代の医書である『黄帝内経素問』奇病論篇では,「此れ肥美の発する所なり.此の人必ずしばしば甘美にして多く肥たるを食らうなり.肥た....

いないが,「消渇」という疾患概念でとらえられている.BC200年ころ中国前漢時代の医書である『黄帝内経素問』奇病論篇では,「此れ肥美の発する所なり.此の人必ずしばしば甘美にして多く肥たるを食らうなり.肥たるものは人をして内熱せしめ,甘きものは人をして中満せしむ.故に其の気上り溢れ,転じて消渇を為す.之を治するに蘭を以って陳気を除くなり.」と,脂っこいものやおいしいものの食べすぎで消渇になると記載されている.さらにAC200年ころ後漢時代の『金匱要略』には「男子消渇,小便反て多く,一斗を飲むを以て,小便一斗なるは,腎気丸之を主る.」と,口渇・多飲・ジンキガンハチミジオウガン多尿を呈する状態に,腎気丸(八味地黄丸)が適応であると記載されている.日本では982年,平安時代に丹波康頼が編纂した『医心方』が,現存する最古の医書で,「病源論に云う.消渇と云うは,渇して小便せざるが是れ也」と,「消渇」という病名が使われるようになった.その後,1574年,戦国時代に「医聖」と称された1曲直瀬道三の『啓迪集』消渇門)では消渇を3病期ビャッコカニンジントウ,に分け,口渇が強く多飲の上消では白虎加人参湯チョウイジョウキトウ多食で便秘がみられる中消では調胃承気湯,多尿ロクミガンで顔色が黒く腎消ともいわれる下消では六味丸が適応とされている.昭和の代表的漢方医である大塚敬節は,糖尿病のダイサイコトウカジオウ漢方処方として,八味地黄丸,大柴胡湯加地黄,白バクモンドウイシンシクンシトウ虎加人参湯,麦門冬飲子,四君子湯を挙げているが,現在のわが国の保険診療で,「糖尿病」に対して投ダイサイコトウ,与が認められているのは,八味地黄丸,大柴胡湯ゴレイサン五苓散である2).Ⅲ漢方治療とは漢方医学は,西洋医学とは全く異なる治療戦略をもつ.つまり患者の訴える「症状」に対して,西洋医学は,種々の科学的手法による分析的,臓器別的なアプローチで「疾患」を診断し,それに対して治療を行う「疾患治療」であるのに対し,漢方医学は,長い年月の間集積された先人の経験による漢方医学表1血糖降下作用を有する生薬葛根,?楼根,桔梗,粳米,山茱萸,山薬,地黄,車前子,朮,桑白皮,沢瀉,知母,茶葉,当帰,人参,麦門冬,茯苓,附子,麻黄,麻子仁など的手法にもとづいて,病人をグローバルにとらえる心身一如のアプローチで「証」を診断し,治療を行う「随証治療」である.漢方医学では身体が中庸にあることが健康な状態ととらえ,身体の変調を,陰陽,虚実,表裏,寒熱,六病位,気血水,五臓など漢方特有の概念にもとづいてとらえ,「証」を決定し,その人に合った養生をすすめ,方剤を選択するのである.例えば,発熱,惡寒,咳嗽などの症状を訴える患者には,西洋医学では「感冒」と病名を診断し,病気の治療を行うが,漢方では,同じ感冒であってカッコントウショウシンブトウショウも,陽証では「葛根湯証」,陰証では「真武湯証」などと,患者の体力や身体,心理的状態によって,全く違う方剤や病態を表す「証」を診断し,治療を行う.Ⅳ糖尿病治療における漢方治療1血糖コントロールに対して西洋医学でも,血糖管理については,特に2型糖尿病においては特殊なケースを除いて,まず食事,運動療法の指導を徹底し,生活習慣を改善することが必須である.これは漢方医学の正しく養生にあたるものである.生薬のなかには,血糖降下作用を有するものは多い(表1).しかし,実際の血糖管理に対して十分な効果は期待できないため,患者の病態に合わせて西洋医学的に対応する必要がある.2合併症の治療に対する漢方治療1)糖尿病神経障害に対して?多発神経障害について異常感覚(しびれ感,ジンジン感,冷感)や疼痛,感覚鈍麻などの自覚症状について十分な効果を発揮する西洋薬は少なく,最も漢方治療が威力を発揮するところである.特に冷感・しびれ感,疼痛には漢Current Therapy 2012 Vol.30 No.7 109699