カレントテラピー 30-6サンプル page 25/30
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肥満症の病態と治療に関する最近の知見―肥満症医療の新しい地平肥満と炎症東京医科歯科大学糖尿病・内分泌・代謝内科メディカルフェロー田中都東京医科歯科大学難治疾患研究所分子代謝医学研究室准教授菅波孝祥東京....
肥満症の病態と治療に関する最近の知見―肥満症医療の新しい地平肥満と炎症東京医科歯科大学糖尿病・内分泌・代謝内科メディカルフェロー田中都東京医科歯科大学難治疾患研究所分子代謝医学研究室准教授菅波孝祥東京医科歯科大学糖尿病・内分泌・代謝内科教授小川佳宏従来,脂肪組織は余剰なエネルギーを中性脂肪として蓄積する貯蔵器官と考えられてきた.しかし,近年の発展的な研究成果により,アディポサイトカインと総称される生理活性物質を活発に産生・分泌する生体内で最大の内分泌器官として,多彩な生命現象に関与することが明らかになってきた.体脂肪が過剰に蓄積した肥満の脂肪組織では,中性脂肪蓄積量の増大に伴い脂肪細胞の肥大化が生じ,脂肪細胞数の増加が認められる.また,脂肪細胞自身の変化のみならず,血管新生,マクロファージやリンパ球など免疫担当細胞の浸潤,細胞外マトリックスの過剰産生など,ダイナミックな組織変化が生じる.このような変化は,動脈硬化の血管壁における血管内皮細胞,血管平滑筋細胞,マクロファージなどが織りなす複雑な相互作用,すなわち,「血管壁リモデリング」と酷似しており,「脂肪組織リモデリング」ともいわれる.脂肪組織には少なくとも2種類の性質の異なるマクロファージが存在することが知られており,非肥満の脂肪組織では非活性型M2マクロファージが主であり,抗炎症性サイトカインであるインターロイキン(interleukin:IL)-10やNO生合成を抑制するアルギナーゼを産生することによって炎症性変化を抑制している.これに対し,肥満に伴い増加する活性型M1マクロファージは,多くの炎症性サイトカインを分泌して脂肪組織の炎症性変化を促進する.肥大化した脂肪細胞では腫瘍壊死因子(tumor necrosis factorα:TNFα)やIL -6,飽和脂肪酸などの炎症性サイトカインが大量に産生・分泌されるが,これらの炎症性サイトカインは肝臓や筋肉などの受容体に作用し,インスリンシグナルの阻害を介して,全身のインスリン抵抗性を惹起させる.また,単球走化性タンパク質-1(monocytechemoattractant protein -1:MCP -1)などのケモカインは,免疫担当細胞を脂肪組織へと浸潤させる.一方で,抗糖尿病作用をもち,肝臓や筋肉でインスリン感受性を良好に保つ作用のあることが知られているアディポネクチンは,肥満度と逆相関して分泌が減少する.このようなアディポサイトカイン産生調節の破綻は,メタボリックシンドロームの病態形成に中心的な役割を果たすと考えられる.88Current Therapy 2012 Vol.30 No.6570