カレントテラピー 30-6サンプル

カレントテラピー 30-6サンプル page 13/30

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肥満症のニューフロンティアしかし,同年Tsuchiyaらは,非肥満の健常者においてネスファチン1の血中レベルがBMIと負の相関を示すことを報告した9).同年にGhanbari -Niakiらは運動前後でヒトのネスファチン1の血中....

肥満症のニューフロンティアしかし,同年Tsuchiyaらは,非肥満の健常者においてネスファチン1の血中レベルがBMIと負の相関を示すことを報告した9).同年にGhanbari -Niakiらは運動前後でヒトのネスファチン1の血中濃度を比較したが,双方において差はないことを報告した10).同年にAydinは母乳中にネスファチン1が存在することを見いだし,新生児の発育やエネルギーバランスに重要な役割を果たしている可能性を報告した11).2011年,Ogisoらは,神経性食思不振症患者では血中ネスファチン1レベルが健常者に比して低下しており,ネスファチン1の産生が栄養状態により影響を受ける可能性について報告をした12).同年,Ariらは,うつ病患者におけるネスファチン1血中濃度は健常者よりも有意に高いことを報告した13).またTanらは,髄液中と血液中のネスファチン1レベルの検討を行った.そして,髄液中と血液中のネスファチン1レベルの比は,BMI,体重,体内脂肪量と負に相関していること,髄液中のネスファチン1レベルは血中のネスファチン1のレベルと正の相関を示すこと,血液中ネスファチン1レベルの高い肥満者では,髄液中/血液中のネスファチン1レベルの比が低いことを見いだし,肥満者にはネスファチン1抵抗性が存在する可能性について報告した14).同年に,Zegersらは男性の肥満においては,ネスファチンのpolymorphisms(遺伝子多型)が肥満に対して抑制的に作用する可能性を報告した.しかし,ネスファチンの肥満への関与に性差が生じた理由に関しては不明である15).同年に,Aydinらはてんかん発作直後にネスファチン1の血中濃度が一過性に上昇することを報告した.ネスファチン1が中枢神経系の疾患と関連を有することを示唆する報告である16).2012年に,Zhangらは2型糖尿病と境界型耐糖能異常では,血中ネスファチン1レベルが上昇していることを報告した.さらに,2型糖尿病と境界型耐糖能異常では血中ネスファチン1とBMIとの間に正の相関関係が存在することを報告した17).上述のように,ヒトの研究においては,いずれの研究成果も髄液中,血液中のネスファチン1濃度を評価した内容であり,ヒトへネスファチン1を投与した研究報告はいまだなされていない.肥満とネスファチン1との関連からみると,ネスファチン1の血中濃度とBMIとの関係において,正の相関ありとするものが2報,負の相関がありとするものが1報であった.興味深い点は,肥満者にはネスファチン1抵抗性が存在する点である.現時点では,肥満者においては,血中にネスファチン1が増えているにもかかわらずBMIが大きいと考えるのが妥当のようである.しかし,実際に肥満者においてネスファチン1への反応性が低下していることを証明する研究報告はなされていないので,ヒト肥満者におけるネスファチン1の関与に関しては,さらなる研究成果の集積が必要である.Ⅵネスファチン1の臨床応用への可能性ヒトへの効果が確認されていない現状で,また,マウスへの末梢投与の効果が2報しかないなかで,6効果ありとする報告)18と効果なしとする報告)とに結果が分かれている現状で,ネスファチン1の臨床応用について論じることには飛躍があるかもしれないが,将来の展望を踏まえてここでは論じることとする.ネスファチン1受容体の同定がなされていない現在,化合物としてのアゴニストの開発は非常に困難なので,臨床応用としては,ネスファチン1そのものを投与することも選択肢のひとつとなる.まずは,ペプチドとしてのネスファチン1の有効な投与ルートを見いだすことが必要になる.ペプチドなので,インスリンのように経口投与は難しい.皮下投与,経静脈的投与,経鼻投与などが候補に挙がる.末梢投与の際に想定される機序は,肥満者でネスファチン1抵抗性がみられることを考えると,迷走神経系などを介しての末梢から中枢神経系へのアクセスが候補として挙げられる.事実,ネスファチン1の末梢投与で効果ありとした報告では,カプサイシCurrent Therapy 2012 Vol.30 No.649715