カレントテラピー 30-5 サンプル

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大腸癌の診療―標準治療から最新治療まで―企画東京医科歯科大学大学院腫瘍外科学分野教授杉原健一エディトリアル生活様式の欧米化や高齢者の増加により,いま日本では大腸癌は急速な勢いで増えてきている.大腸癌の....

大腸癌の診療―標準治療から最新治療まで―企画東京医科歯科大学大学院腫瘍外科学分野教授杉原健一エディトリアル生活様式の欧米化や高齢者の増加により,いま日本では大腸癌は急速な勢いで増えてきている.大腸癌の罹患者数は2001年に10万人を超え,2005年には約10万8千人と推計されており,この30年間に5倍以上に増加した.これに伴い,大学病院やがん専門病院ばかりでなく多くの一般病院でも大腸癌の診断・治療が行われるようになったことから,大腸癌の診療に携わっている医師においては大腸癌診療に関する正しい情報や最新の研究成果を知ることが重要になってきた.1973年に設立された大腸癌研究会では,『大腸癌取扱い規約』の作成・改訂を通して,大腸癌のデータベースを充実させることにより現状を把握し,診断・治療の改善を図るとともに,『大腸癌治療ガイドライン』を出版し標準治療の普及に努めてきた.一方,大腸癌の根絶を目指した多くの研究が成果を挙げてきた.免疫学的便潜血検査法の導入,内視鏡機器の改良や内視鏡診断学の進歩,内視鏡治療技術の向上などにより大腸癌の前癌病変(腺腫)の切除による2次予防が普及してきている.また,早期大腸癌の診断技術や内視鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal resection:EMR)の普及により,内視鏡治療で治癒する大腸癌も増えてきた.大腸癌治療の中心をなす外科手術においても,リンパ節郭清の重要性が認識され,適切なリンパ節郭清範囲が確立し,治療成績が向上した.直腸癌においては,自律神経温存術の導入による排尿・性機能の保持,機械吻合の導入による直腸切断術(人工肛門)の回避など,術後QOLの改善を目指した手術が行われるようになった.1990年代初めに考案され臨床応用されるようになった腹腔鏡手術は,目覚ましい手術器具の改良や手術技術の向上に加え,術後早期のQOLを著しく改善することから,癌の治療としての有効性が十分に検証されていないにもかかわらず,瞬く間に日本中に普及した.現在は,癌の治療としての有効性に関する臨床試験が進行中である.大腸癌治療に関して,最近の十数年における特筆すべきことは,化学療法(抗がん剤治療)の目覚ましい進歩である.1957年に開発された5-FUしかキードラッグがなく,「大腸癌には化学療法は効かない」という時代が長きにわたり続いていた.1990年代に入り,5 -FUの治療効果を高めるロイコボリンが併用されるようになったが,その治療成績も決して満足のいく結果ではなかった.しかし,1990年代半ば以降,日本で開発された塩酸イリノテカンやオキサリプラチンの有効性が欧米で行われた臨床試験で確認されると,5 -FU・ロイコボリンにこれらの新規抗がん剤を併用することにより,切除不能大腸癌の生存期間の中央値はそれまでの12カ月から20カ月を超えるまでになった.2000年代半ばには分子標的治療薬が併用されるようになり,さらに生存期間が延長してきている.本号の特集では,急速に増えている大腸癌に対する現在の標準治療を紹介するとともに,進歩の著しい領域での最新の知見を盛り込んだ.大腸癌診療に携わる多くの先生方の日常診療のお役にたてれば幸いである.Current Therapy 2012 Vol.30 No.53817