カレントテラピー 30-5 サンプル page 33/38
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Key wordsKRAS遺伝子国立がん研究センター東病院消化管腫瘍科佐々木尚英国立がん研究センター東病院消化管腫瘍科医長吉野孝之上皮成長因子受容体(epidermal growthfactor receptor:EGFR)の重要なシグナル伝達経路....
Key wordsKRAS遺伝子国立がん研究センター東病院消化管腫瘍科佐々木尚英国立がん研究センター東病院消化管腫瘍科医長吉野孝之上皮成長因子受容体(epidermal growthfactor receptor:EGFR)の重要なシグナル伝達経路には,MAPK経路,PI3K/Akt経路,JAK/STAT経路の3つがあり,KRASタンパクはこのうちMAPK経路に関与するGTP/GDP結合タンパク質である.EGFRからのシグナルを受け活性化されたRASはRAFを活性化し,RAFは引き続きMEKを,MEKはMAPKを活性化するというカスケードを形成している.KRASおよび他のRASファミリー(HRAS,NRAS)の遺伝子変異は種々のがん腫において報告があり,KRAS遺伝子はKirstenラット肉腫ウイルスより癌遺伝子として分離・命名された.現在,KRAS遺伝子は結腸・直腸癌において抗EGFR抗体薬であるセツキシマブ,パニツムマブの治療効果を予測するバイオマーカーとして実地臨床で使用されており,KRAS遺伝子の変異を有する症例においては抗EGFR抗体薬は無効である.もともと抗EGFR抗体薬は,EGFRを特異的に阻害する分子標的薬として開発された経緯から,EGFRの発現が治療効果の発現に必須と考えられていた.しかし,セツキシマブの臨床試験の結果,免疫染色によるEGFR発現と治療効果には相関がなく,また,EGFR陰性例においても陽性例同様の治療効果が得られることが判明し,EGFR発現の臨床的な意義は否定的となった.代替となるバイオマーカーの探索が進められ,まずレトロスペクティブな解析でKRAS遺伝子変異例にはセツキシマブが無効であることが示唆され,次いで前向きの大規模臨床試験においても,KRAS遺伝子変異例にはセツキシマブ,パニツムマブの治療効果が得られないことが確認された.こうしてKRAS遺伝子は,抗EGFR抗体薬の治療効果予測因子として確立するに至った.なお,免疫染色によるEGFRがセツキシマブ,パニツムマブの治療効果と関連しないことについては,現行の免疫染色の抗体が認識するエピトープが,セツキシマブ,パニツムマブとのEGFRの結合部位と異なることが原因と考えられている.KRAS遺伝子変異が抗EGFR抗体薬無効となる機序は,KRASタンパクが恒常的に活性型となり,上流からのEGFRのシグナル伝達とは無関係にMAPK経路が活性化するためと推定されている.KRAS遺伝子変異のほとんどはcodon12,13に集中しており(頻度が1%以上の変異は,G12A,G12C,G12D,G12R,G12S,G12V,G13Dの7種),これらはいずれも活性型の変異である.KRAS遺伝子変異の頻度は民族間差なくほぼ40%とされ,この検査を行うことで約60%の無効例への無用な投与を回避できることとなるが,KRAS遺伝子野生型の症例においても,抗EGFR抗体薬による奏効率の上乗せは10~30%程度で,十分な個別化がなされているとは言い難い.しかし現在,KRAS遺伝子に続くバイオマーカーとして,HRAS,NRASやBRAF,PI3K,amphiregulin,epiregulinなどの検討が進められている.Current Therapy 2012 Vol.30 No.546591