カレントテラピー 30-3 サンプル

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脂質異常症―日常診療に必要な知識をまとめよう脂質異常症はなぜ悪いのか*1*2桑原絵里加・岡村智教コレステロールが動脈硬化の形成や進展に関与することが発見されて以来,関連するさまざまな領域で多くの研究が着....

脂質異常症―日常診療に必要な知識をまとめよう脂質異常症はなぜ悪いのか*1*2桑原絵里加・岡村智教コレステロールが動脈硬化の形成や進展に関与することが発見されて以来,関連するさまざまな領域で多くの研究が着手されてきた.近年,本邦の疫学研究としてはNIPPON DATA80や吹田研究,久山町研究,CIRCS研究などの知見が次々と報告され,少なくとも日本人男性の場合,血清LDLコレステロール(LDLC)値が140?160mg/dL以上(総コレステロールの場合,220?240mg/dL以上)から虚血性心疾患の発症または死亡のリスクが明らかに上昇することが示された.一方,女性の場合は虚血性心疾患の発症率が低いこともあり,いまだ十分なエビデンスが得られていない.また高トリグリセリド(TG)血症(150mg/dL以上)の場合,non-HDLコレステロール(non-HDLC)高値(190mg/dL以上)で心筋梗塞発症の相対危険度が両方低い場合の約2.5倍となることが示されており,今後non-HDLCの管理目標値も必要とされる.また欧米に比べて,日本人の虚血性心疾患の発症に与えるHDLCの相対的な影響はより大きいことも示されている.脂質異常症は虚血性心疾患の主要な危険因子のひとつであり,わが国独自の知見に基づいた継続的な管理が必要である.Ⅰはじめに20世紀初頭にコレステロールが動脈硬化に関与していることが発見されて以来,脂質異常について多くの研究がなされてきた.1948年には虚血性心疾患の発症要因を明らかにする目的で前向きコホート研究としてFramingham研究が着手された.以来,多くの疫学研究や臨床試験が行われ,脂質異常症,特にコレステロールの高値が虚血性心疾患の危険因子であることは確立したエビデンスとして知れわたるようになった.近年,本邦においても疫学研究の報告が増えてきた.本稿では,国内外のコホート研究のエビデンスに基づいて,動脈硬化症の危険因子としての脂質異常症について解説する.Ⅱわが国の虚血性心疾患の動向従来から指摘されているように,日本人の虚血性心疾患死亡率を欧米諸国と比較すると1/3?1/5と非常に低い1).1970年代には日米の総コレステロール(total cholesterol:TC)の平均値には大きな差があったが,近年,若い世代ではほとんど差はみられなくなっている.にもかかわらず,日本人の虚血性心疾患の死亡率が上昇していない理由として,次の2つが考えられる.ひとつは,虚血性心疾患患者が集中する60歳代以降の世代が青・壮年期だったころ*1慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学*2慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教授8Current Therapy 2012 Vol.30 No.3188