カレントテラピー 30-3 サンプル

カレントテラピー 30-3 サンプル page 27/34

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マイクロRNAによる脂質代謝制御京都大学大学院医学研究科循環器内科講師尾野亘1はじめにマイクロRNA(microRNA:miRNA)は21?25塩基の非コードRNAであり,進化の過程を遡ると,カイメン(sponge)からその存在が知ら....

マイクロRNAによる脂質代謝制御京都大学大学院医学研究科循環器内科講師尾野亘1はじめにマイクロRNA(microRNA:miRNA)は21?25塩基の非コードRNAであり,進化の過程を遡ると,カイメン(sponge)からその存在が知られている.miRNAの数は生物の複雑さとともに増加し,ヒトゲノムには約1,400個のmiRNAが存在するとみられている.個々のmiRNAには数十から数百の標的遺伝子があると考えられ,その結果,miRNAは50%以上の遺伝子を制御しているとの報告がある.2コレステロール代謝におけるmiRNAの役割これまでにコレステロール代謝にかかわる数種類のmiRNAが報告されている.2010年,われわれを含む複数の研究グループによって,miR -33がコレステロール代謝に重要な働きをすることが報告された.miR - 33はsterol regulatory element -binding protein 2(SREBP -2)の遺伝子のイントロン16に存在し,これはショウジョウバエからヒトまで種を越えて保存されている.SREBP -2は,コレステロールの低下を感知して,コレステロール合成経路の酵素遺伝子の発現を制御する転写因子である.われわれは,コレステロールトランスポーターのATPbindingcassette transporter(ABC)A1の3’-UTRにmiR -33結合配列が3カ所,種を越えて保存されていることを見いだした.ABCA1はHDLの形成に必須であり,その異常はタンジール病を引き起こす.ABCA1の変異は動脈硬化症の重要な危険因子であることが疫学的にわかっており,ABCA1の発現や活性の増強は脂質恒常性の改善の重要なターゲットである.すなわち,コレステロールの調節にかかわる重要な分子であるSREBP -2とABCA1の間にはmiR -33を介した機能制御が進化的に保存されていることになる.われわれはmiR-33の遺伝子欠損マウスを作製し,このマウスにおいてはABCA1の発現が上昇し,HDLコレステロールが上昇することを示した.今後,このmiR -33の抑制による動脈硬化予防・治療が可能となると考えられる.そのほか,miR-122,miR-370,miR-613,miR -758といったmiRNAが脂質代謝制御にかかわっているという報告がある.3おわりにコレステロールレベルは細胞・生体内で厳密かつ巧妙に制御されており,多くの研究者が熱心にその機序の解明に取り組んできた.miRNAは種を越えて保存されており,個体発生のみならず,多くの重要な生命現象をつかさどっていることが明らかになってきた.現在これらの制御による疾患治療法の開発研究が進んでいる.Current Therapy 2012 Vol.30 No.326383