カレントテラピー 30-3 サンプル page 26/34
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概要:
脂質異常症―日常診療に必要な知識をまとめよう転写因子による脂質代謝制御筑波大学医学医療系内分泌代謝・糖尿病内科教授島野仁脂質代謝遺伝子の調節は,日,月の単位で比較的長期的で緩徐な制御を受ける.したがっ....
脂質異常症―日常診療に必要な知識をまとめよう転写因子による脂質代謝制御筑波大学医学医療系内分泌代謝・糖尿病内科教授島野仁脂質代謝遺伝子の調節は,日,月の単位で比較的長期的で緩徐な制御を受ける.したがってひとつの機能を担う一連の関連遺伝子群はまとまって転写レベルでの調節を受け,それを支配する転写調節因子の働きがカギとなる.以下に挙げる脂質代謝関連転写調節因子が主要な脂質の合成異化の転写調節にあずかり血中脂質レベルに影響を与えている.SREBP-2細胞内のコレステロール調節を担っている.コレステロール合成酵素遺伝子群,LDL受容体(LDLR)の転写調節を支配し血中LDLコレステロール(LDL-C)レベルを規定する.HMG-CoA還元酵素阻害薬スタチンのLDL-C低下作用のメカニズムは,コレステロール合成抑制によるフィードバックを介したSREBP - 2の活性化(核内移行)の結果,LDLR活性が誘導されることによる.LXR核内受容体で酸化ステロール受容体として細胞内の過剰なコレステロール処理を担う遺伝子の誘導を支配する.肝臓における胆汁酸合成酵素の誘導のほか,マクロファージにおけるコレステロール排出にかかわる膜タンパクABCA1,G1の転写活性化によりHDL新生,HDLコレステロール(HDL -C)上昇作用を有する.最近ではTNFやTLRの下流の遺伝子発現にも影響し抗炎症作用がいわれている.併せてその薬剤アゴニストは抗動脈硬化作用が期待されている.SREBP-1c脂肪酸,トリグリセリド(triglyceride:TG),合成酵素に関連する遺伝子群の転写調節にかかわる.栄養過多における脂肪肝,高TG血症,レムナント血症にかかわる.PPARα核内受容体で主に肝臓で脂肪酸燃焼にかかわる脂肪酸ω,β酸化酵素や関連タンパクの転写調節,LPL活性に影響を与えるアポタンパクCⅡ,CⅢの制御によるLPL活性制御,アポAI誘導によるHDLの産生亢進がある.その薬剤アゴニストフィブラートは高トリグリセリド血症薬として中性脂肪を低下させ,HDL-Cを増加させる.PPARγ脂肪細胞分化のマスター転写因子.薬剤アゴニストのチアゾリジン誘導体はPPARγを活性化し脂肪細胞の分化誘導とインスリン抵抗性改善,血中TG低下,アディポネクチン誘導,TNF -α炎症性サイトカインの抑制作用を発揮し抗動脈硬化作用を有する.転写因子はそれぞれの独自の機能に加え転写因子間のクロストークによるさまざまな相互作用があり生体の代謝ホメオスタシスを担っている.各転写因子の発現,内因性リガンド,コファクター,クロマチン修飾(エピジェネティックス)が全体の制御に複雑に関与しており,今後の研究が待たれる.82Current Therapy 2012 Vol.30 No.3262