カレントテラピー 30-2 サンプル page 21/26
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認知処理療法(CPT):心的外傷後ストレス障害の治療法独立行政法人国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センター研修指導部長堀越勝駿河台大学心理カウンセリングセンター助手髙岸百合子筑波大学人間総合科....
認知処理療法(CPT):心的外傷後ストレス障害の治療法独立行政法人国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センター研修指導部長堀越勝駿河台大学心理カウンセリングセンター助手髙岸百合子筑波大学人間総合科学研究科学生支援GP助教樫村正美認知処理療法(cognitive processing therapy:CPT)は心的外傷後ストレス障害(posttraumaticstress disorder:PTSD)のために考案された認知行動療法(cognitive behaviortherapy:CBT)である.同じくPTSDに対するCBTである持続エクスポージャー療法(prolonged exposure:PE)に比べると,日本での知名度は高くないものの,米国においては無作為割付けによる効果研究がいくつか行われ,PTSDの症状やうつ,罪悪感の軽減に効果を発揮することが報告されている.CPTは,もともとはレイプ被害者群を対象に実施されたものであるが,その後,退役軍人や,幼少期の性的虐待,親密な他者からの暴力の被害者など,その適用範囲は広がりつつある.筆記を用いたマイルドな曝露を用いる点など,日本人に合う介入方法と考えられる.1 CPTの基本的な考え方CPTは社会的認知理論を用いてPTSDを理解し,トラウマティックな体験にまつわる認知の内容,解釈の仕方と,それが生み出す感情に着目している.トラウマティックな体験をしたとき,その人がこれまでもっていた考え方と体験が食い違っていた場合,人は入ってきた情報を既存の認知の枠組みに合わせて変容したり(同化),入ってきた情報に照らして認知の枠組みを変化させる(調節)ことによって,トラウマティックな体験と折り合いをつけようとする.CPTでは,その過程でできた認知面でのひっかかり(stuck point)が,自責感など,その人を苦しめる感情を生み出し,PTSDからの回復を妨げていると考える.トラウマティックな出来事を経験したものが,一定の期間危機反応を示すことは自然なことである.しかし,元の状態に戻れずに長期にわたり危機反応を体験し続けていること,つまり,回復を妨げ症状を持続させる因子にひっかかって戻れない状態が続く患者においては,回復を妨げている因子から患者を解放するための働きかけが必要であり,CPTではその作業を患者とともに実施していく.2 CPTの特徴1)筆記を用いる:認知療法の常套手段である自己モニターや曝露課題などを筆記を通して行うように工夫されている.2)時間制限療法である:CPTは1クール12セッションで行われる.そのなかで行われることはほぼ定まっており,CBTの基礎を身につけていれば実施可能である.3)特定の認知に介入する:PTSDからの回復を妨げるひっかかりを同定し,その認知を再構成する.それらは,安全(safety),信頼(trust),力とコントロール(power&control),尊厳(esteem),そして親密な関係(intimacy)の5つである.4)グループやカップルにも応用可能:CPTは個人を対象とするだけではなく,グループやカップルにも実施することができる.76Current Therapy 2012 Vol.30 No.2164