カレントテラピー 30-2 サンプル

カレントテラピー 30-2 サンプル page 20/26

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Key words精神的痛み:緩和医療における痛みの理解東京医科歯科大学大学院心療・緩和医療学分野准教授松島英介がんはいまだに死を意識させる疾患であるうえ,病名告知をはじめ経過中に何回もいわゆる「悪い知らせ」....

Key words精神的痛み:緩和医療における痛みの理解東京医科歯科大学大学院心療・緩和医療学分野准教授松島英介がんはいまだに死を意識させる疾患であるうえ,病名告知をはじめ経過中に何回もいわゆる「悪い知らせ」を受ける可能性をもっている.また長期に生存していても自己コントロールのしにくい疾患であることから,他の身体疾患に比べて患者の受けるストレスの程度は計り知れない.こうしたがん患者の医療において,緩和医療はいまやがんの初期から治癒的医療と並んで適用されるものとなっており,その概念に時間的な広がりがみられるようになった.さらに緩和医療は,疼痛や他の身体症状のような身体的痛みばかりでなく,不安や抑うつなどの精神的痛み,経済的な困難や家族間の問題などの社会的痛み,そして生きる意味や価値さらに信念などのスピリチュアルな痛みをも含めた全人的痛みを対象とするという意味で,その概念の包括的な広がりもみられており,これに対応するためにはチーム医療が不可欠になってきている.そのなかで,がん患者の精神的痛みについて調べた研究では,米国において入院・外来を問わず病名告知を受け治療中の,終末期を除く全病期にあるがん患者について精神科医が面接をしたところ,47%の患者がDSM -Ⅲによる精神疾患に該当し,このうち全体の32%が適応障害,6%が大うつ病で,合わせて38%の患者がうつ状態にあったことが報告されている.一方,日本の緩和ケア病棟に入院している終末期がん患者について同じく精神科医が面接をしたところ,54%の患者がDSM -Ⅲによる精神疾患に該当し,このうち全体の28%がせん妄で,うつ状態は11%と少なかった.このように,がん患者の精神的痛みについては,全病期を通じてみるとうつ状態が多いが,終末期に近づくとせん妄が中心となることがわかる.この精神的痛みのうち,うつ状態の特徴としては,有病率が一般の身体疾患に比べて決して高いわけではないこと,特に疼痛や身体活動性と関係していること,症状ががんの身体症状や抗がん剤などの副作用と重なるために診断しにくいこと,正常な反応としてとらえられがちで適正な治療が行われていないこと,などが挙げられる.一方,がん患者のせん妄の特徴としては,特に終末期で多いこと,不活発や無関心などの症状が主体の低活動型の割合が多く,うつ状態との鑑別が難しいこと,患者本人のみならず家族の心にも大きな苦痛となること,予後と深く結び付いていることもあり,治療に反応しないことも多いが,オピオイドや他の薬物,脱水などの原因によるものでは改善も期待できること,などが挙げられている.Current Therapy 2012 Vol.30 No.216375