カレントテラピー 30-12 サンプル page 27/30
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服薬アドヒアランス慶應義塾大学保健管理センター教授齊藤郁夫『日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン2004』(JSH2004)ではコンプライアンス(compliance)という用語を用いていた.しかし,JSH2009ではアドヒアラ....
服薬アドヒアランス慶應義塾大学保健管理センター教授齊藤郁夫『日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン2004』(JSH2004)ではコンプライアンス(compliance)という用語を用いていた.しかし,JSH2009ではアドヒアランス(adherence)とコンコーダンス(concordance)という用語を用いている.この用語変更の背景には,慢性疾患の治療に対する医師・患者関係の考え方の変化がある.コンプライアンスは法令遵守の意味で使用されるように,どこかで決められたことを守るというニュアンスがある.医療では医師の指示を患者が遵守し,処方された薬を患者がきちんと服薬するということになるが,患者が受動的に従順に行動することを期待するpaternalistic(家長主義)な態度が含まれているため,コンプライアンスということばを医療では使用すべきではないとされた.その代わりに近年使用されることが多くなった用語がアドヒアランスで,服薬,生活習慣の修正などについて,患者と医師が相互に合意した治療方針に患者が自発的に従うことを意味している.降圧薬の服薬アドヒアランスは血圧のコントロール,心血管系疾患の予後と関係する.アドヒアランス不良には多くの要因があるが,医師側からとして,薬の副作用,数が多い,複雑な処方がある.日本の高血圧患者を対象にアンケート調査を行ったところ,降圧薬2剤では12%で服薬忘れがあるが,3剤以上では23%で服薬忘れがあると回答した.また,服薬錠剤数の増加に対しては68%の患者で抵抗があると回答した.合剤を用いると錠剤数が少なくなるが,合剤と個別の薬剤の併用間でアドヒアランスを比較すると,合剤のほうがアドヒアランスは良好で,医療費も少ないと報告されている.病気について十分な知識をもった患者が疾病管理にパートナーとして参加し,医師と患者が合意した治療を共同作業として行う過程を意味するコンコーダンスという用語もある.1996年に英国の保健省と薬学会とで作られたMedicines Partnership Groupにより導入された概念である.JSH2009では1患者と医師のコミュニケーション(高血圧のリスクと治療効果,治療計画,副作用,費用対効果,服薬忘れへの対策を十分に話す),2患者の生活習慣と合わせて生活習慣修正を行う,3家庭血圧測定,4患者支援システムを利用する,などによりコンコーダンス医療を行うとしている.そのためには,病気について十分な知識をもった患者がパートナーとして必要であるが,現状では医師と患者の高血圧への理解,認識の乖離は大きい.高血圧のリスクについて患者の理解度は,“脳卒中や心筋梗塞などの原因になることを知っている”のは,未治療高血圧患者の約30%,治療中高血圧患者の約50%であった.医師は,これらのリスクについて患者に説明し,ほぼ100%が理解していると思っている.また,“収縮期血圧が150mmHgの時点で医療を受けるべき”と考える頻度は治療中高血圧患者で37%,医師で80%であった.患者,医師ともによりよいコミュニケーションへの障害を理解し,行動することにより高い服薬アドヒアランスを維持することが望まれる.96Current Therapy 2012 Vol.30 No.121312