カレントテラピー 30-11 サンプル page 8/36
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概要:
脳卒中治療の最前線4アルテプラーゼ至適用量の検討日本が採用したアルテプラーゼ0.6mg/kgという用量は,世界に大きな波紋をよんだ.特にアジア人は脳出血のリスクが高いため,欧米標準量の0.9mg/kgよりも0.6mg/kgを....
脳卒中治療の最前線4アルテプラーゼ至適用量の検討日本が採用したアルテプラーゼ0.6mg/kgという用量は,世界に大きな波紋をよんだ.特にアジア人は脳出血のリスクが高いため,欧米標準量の0.9mg/kgよりも0.6mg/kgを用いるのが望ましいのではないかという意見もある.アルテプラーゼ0.6mg/kgは少なくとも0.9mg/kgに劣らない有効性を示し,安全性については頭蓋内出血のリスクを軽減するという仮説を検証すべく(主にアジア・オセアニアで)Enhanced Control of Hypertension and ThrombolysisStroke Study(ENCHANTED)が実施中である.この試験は2×2デザインで,血圧についても通常管理(<180~185mmHg)と積極的降圧(140~150mmHg)で,安全性,有効性に差がないかについても検証している.5新規血栓溶解薬の開発アルテプラーゼよりも血栓溶解作用が高く,脳出血合併をきたさない薬剤として,desmoteplaseやtenecteplaseを用いた治療法も検討されている.desmoteplaseは吸血コウモリの唾液に由来する血栓溶解薬である.第Ⅲ相試験であるDesmoteplaseIn Acute Ischemic Stroke 2(DIAS -2)18)は,前述のミスマッチ症例に9時間のタイム・ウィンドウで実施したが失敗に終わった.しかし主幹動脈閉塞例に限ると,本薬剤は用量依存的に有効という解析結果も示されている.そこで現在は,主幹動脈閉塞を選択基準としたプロトコールに改め,DIAS -3(欧州,アジア・オセアニア)とDIAS -4(北米・南米,北欧)という臨床試験が進行中である.日本ではDIAS -Japanという試験で用量設定を行っている.Tenecteplaseは,アルテプラーゼcDNAを遺伝子改変し,フィブリン特異性およびplasminogen activatorinhibitor(PAI)-1への耐性を高め,生物学的半減期を長くした薬剤である.発症6時間以内で,CT血管造影にて前・中・後大脳動脈閉塞を認め,CT灌流画像の基準を満たす75例に対してTenecteplase19vs. Alteplase for Acute Ischemic Stroke試験)が実施された.その結果,tenecteplaseは用量依存性にアルテプラーゼより再灌流例を増やし,頭蓋内出血を含む有害事象は増えず,90日目の評価を含むすべての有効性転帰も良好であった.今後,症例数を増やした第Ⅲ相試験が計画されている.6脳血管内治療との棲み分け/ハイブリッド療法日本でも2010年にMerci R,2011年にPenumbra Rが認可され,血栓回収デバイスを用いた血行再建療法が脚光を浴びている.Interventional Managementof StrokeⅢ(IMS -Ⅲ)20)は,アルテプラーゼ欧米標準量0.9mg/kgの2/3を投与した時点で,脳血管内治療による再開通療法を行う群と,残り1/3の点滴を継続する群に2:1で振り分け,2群間で有効性を比較した.脳血管内治療には,局所線溶,血管内超音波照射,Merci R・Penumbra Rのいずれを用いてもよい.血管内治療の効果についての科学的検証試験として期待されたものの,脳血管内治療追加の有効性を証明することはできず,2012年4月656例の登録時点で終了となった.一方,Intra-arterial vs. Systemic Thrombolysisfor Acute Ischemic Stroke(SYNTHESIS EXPAN-SION)試験は,6時間以内の血管内治療(局所線溶単独または機械的血栓除去併用)と,4.5時間以内のアルテプラーゼ静注療法の有効性を比較検証する試験である.目標症例数362例がすでにエントリーを終え,2013年の最終結果が待たれる状況にある.Ⅴおわりに日本が世界に先駆けて有効性を証明したrt -PA静注療法であるが,米国に遅れること10年,紆余曲折を経てようやく脳梗塞急性期治療として定着し,その限界も明らかになってきた.問題点を解決するために,適応拡大(タイム・ウィンドウの延長,MRI所見に基づく症例選択),再開通率向上(超音波血栓溶解,新規薬剤開発,脳血管内治療併用)への努力を継続するとともに,地域での脳卒中診療態勢整備(交通状況の改善,救急体制や専門医療機関の充実,市民啓発,行政の取り組み)が不可欠であることを最後に記しておきたい.Current Therapy 2012 Vol.30 No.11111111