カレントテラピー 30-10 サンプル

カレントテラピー 30-10 サンプル page 37/42

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Key words白血病のバイオマーカー名古屋大学大学院医学系研究科血液・腫瘍内科学准教授清井仁バイオマーカーとは,一般的に「正常なプロセスや病的プロセス,あるいは治療に対する薬理学的な反応の指標として客観的....

Key words白血病のバイオマーカー名古屋大学大学院医学系研究科血液・腫瘍内科学准教授清井仁バイオマーカーとは,一般的に「正常なプロセスや病的プロセス,あるいは治療に対する薬理学的な反応の指標として客観的に測定・評価される項目」と定義され,血液などの体液や組織中に存在している生体分子のうち,正常または異常な機能,あるいは病態や疾患の徴候を定量的に把握するための指標となるものである.臨床的に理想的なバイオマーカーは,疾患(病型)特異的であり,定量性に優れ,診断のみならず治療効果の判定や予後予測に有用で,治療薬の選択にもつながることが必要であるが,簡便,迅速かつ安価なことも重要な要素である.白血病におけるバイオマーカーとしては,染色体異常が代表的なものであり,なかでもt(8;21),inv(16),t(15;17),t(9;22)などの白血病発症に関与する転座型染色体異常が優れたバイオマーカーとして日常臨床に用いられている.これらの染色体異常は病型特異的であるため,世界保健機関(WHO)分類においてもそれぞれ一病型として定義されている.また,FISH法や形成されるキメラ遺伝子転写物をPCR法にて定量的に測定することによって,高感度に白血病細胞量が定量可能であり治療効果の判定に用いられている.特に,t(15;17)の存在はレチノイン酸(all -trans retinoic acid:ATRA)による,t(9;22)の存在はABL阻害剤による分子標的治療を規定する重要な因子となる.また,これら融合遺伝子内における新たな獲得変異は標的薬剤に対する耐性を示すだけでなく,変異パターンによる薬剤選択の基準として使用されている.一方,多くの白血病においては上記のようなバイオマーカーとして利用可能な染色体異常を有しておらず,新たなバイオマーカーが求められている.これまでに,白血病の発症・進展に関係する多くの分子異常が明らかにされ,それらの分子異常をバイオマーカーとした予後層別化,治療効果予測,個別化治療などの適応基準の確立が模索されている.しかし,白血病の病態には複数の分子異常が関与していることから,網羅的な分子異常解析に基づく層別化が試みられており,バイオマーカーといっても単一分子ではなく複数の分子の組み合わせを指標としたものに変わりつつある.また,その指標とする対象も単に遺伝子異常のみならず,DNAのメチル化状態などのエピジェネティックな変化,microR-NA,タンパク質など多岐にわたってきている.現在,ゲノム,エクソーム,トランスクリプトーム,プロテオームなど網羅的な解析によるバイオマーカー探索が行われている.今後は,これらの革新的技術によって得られた膨大なデータを整理・統合することにより,日常診療への還元が重要である.Current Therapy 2012 Vol.30 No.10108397