カレントテラピー 30-1 サンプル page 8/30
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概要:
高血圧の基礎―病態理解の新たな進歩進,筋交感神経抑制に基づくとされている.この際の腎交感神経亢進による腎Na排泄の低下が食塩摂取による血圧上昇の原因と考えられ,心拍出量増加があるにもかかわらず内臓の血管....
高血圧の基礎―病態理解の新たな進歩進,筋交感神経抑制に基づくとされている.この際の腎交感神経亢進による腎Na排泄の低下が食塩摂取による血圧上昇の原因と考えられ,心拍出量増加があるにもかかわらず内臓の血管抵抗が上昇することが,このNa貯留に基づく血圧上昇に拍車をかけているのであろう.動物実験においても食塩感受性亢進をきたしている若年高血圧自然発症ラットでは,食塩負荷により腎交感神経の圧受容体反射曲線は右にシフトしその傾きも緩やかとなり,交感神経亢進が示唆される.しかし圧受容体反射の中枢特性をみると,これは中枢性の交感神経亢進に基づくことが示唆され,なおかつ中枢交感神経亢進が食塩感受性高血圧の交感神経亢進の本質であることも示唆された16).さらにわれわれは,この中枢性交感神経亢進のメカニズムとして脳内活性酸素種(reactive oxygenspecies:ROS)産生亢進の可能性を指摘している17).すなわち,Dahl Sラットは食塩負荷によって視床下部のROS産生が亢進する.この食塩負荷Dahl Sラットにおいて脳室内に抗酸化薬を急性投与したときの血圧,腎交感神経の反応をみると,いずれの指標も正常食塩食摂取Dahl SラットやDahl Rラットに比べて著明な過大反応を示していた.さらに,最近われわれはこの脳内ROS産生亢進にはMR活性亢進が関与している可能性を示唆する所見を得ており,現在詳細なメカニズムを検索中である.なお,このような脳内ROSが中枢交感神経亢進に関与している可能性は肥満高血圧モデル18)や慢性腎臓病モデルでも得られており,これは食塩感受性高血圧にとどまらない普遍的なメカニズムである可能性も考えられる.Ⅴ食塩感受性亢進とエピジェネティクス腎交感神経系の亢進はどのようなメカニズムで腎Na排泄を抑制するのであろうか.われわれが注目したのは,遠位尿細管のNa -Cl共輸送体(NCC)とそれを調節するWNK4である19).WNK4はNCCの活性を抑制し,遠位尿細管におけるNa再吸収を抑制する作用もある.マウスにノルエピネフリンを投与すると食塩負荷時に血圧上昇を呈するようになるが,この際に腎臓におけるWNK4活性は抑制され,NCC発現が亢進する.これに対してβ遮断薬を投与するとWNK4レベルが回復し,NCC発現が低下して正常状態に復することから,交感神経β受容体刺激がWNK4抑制を介してNCCを賦活化し,腎Na再吸収亢進に基づく体内Na貯留,血圧上昇を生じていると推測された.さらに,このメカニズムにグルココルチコイド受容体(glucocorticoid receptor:GR)の関与を示唆する所見を得ている.すなわち,交感神経β刺激薬であるイソプロテレノール投与はマウスにおいて食塩負荷時の血圧上昇を生じるが,GRノックアウトマウスではこの現象が認められない.このことから,WNK4の上流にはnegative glucocorticoid-responseelement(nGRE)が存在し,これがWNK4の発現を抑えて食塩感受性亢進を呈していると考えられた.さらに,交感神経β受容体刺激はプロテインキナーゼA(PKA)の作用を介してヒストンアセチラーゼ8(HDAC8)によるヒストンアセチル化を生じてクロマチン弛緩を起こすことでプロモータ活性を上げ,GRとnGREの反応に影響してWNK4の活性を低下させることも見いだした.すなわち,腎臓における交感神経β受容体刺激はエピジェネティクスの異常を介してWNK4抑制に基づくNCC増強により腎Na再吸収を亢進して,食塩感受性高血圧を生じると考えられた.Ⅵおわりに血圧の食塩感受性亢進は雑多なメカニズムで起こり得る.どの原因があろうとも食塩感受性高血圧の成因として腎機能の異常は重要である.われわれは最近いくつかの新規の食塩感受性亢進メカニズムを示唆する報告をしたが,食塩感受性高血圧にはまだまだ新規のメカニズムも指摘される領域であり,これらの成果から今後診断や治療への応用が期待されている.Current Therapy 2012 Vol.30 No.11111