カレントテラピー 29-12 サンプル page 31/42
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概要:
て一部の分子標的薬では理想的な臨床開発に成功しておりバイオマーカー研究を利用することの合理性を後押ししている.以上の2点が,バイオマーカー研究の隆盛を支えている重要なターニングポイントである.しかし,....
て一部の分子標的薬では理想的な臨床開発に成功しておりバイオマーカー研究を利用することの合理性を後押ししている.以上の2点が,バイオマーカー研究の隆盛を支えている重要なターニングポイントである.しかし,高らかな「改革宣言」に反して実際には順調な進化を遂げたとはいい難い.例えばセツキシマブにおけるk -ras変異例やゲフィチニブにおけるEGFR変異の研究はいずれも後解析の成果である.また血管新生阻害剤を代表とする新規分子標的薬剤であるベバシズマブ,スニチニブ,ソラフェニブやmTOR阻害剤であるテムシロリムス,エベロリムスなどは,肝心のバイオマーカーに関しては特定できず,結局は古典的な臨床試験の方法論で結果が得られている.バイオマーカー研究と分子標的薬剤の創薬の難しい側面を象徴しているといえる.3分子標的薬剤の臨床開発・今までの抗がん剤の臨床開発との違いは何か?分子標的薬剤の臨床開発と従来の殺細胞性抗がん剤の臨床開発を同じ方法論で実施できるのか,という点についてはさまざまな意見がある.実際には必ずしも適切なバイオマーカーが早期臨床試験当初の時点で同定されているわけではない.むしろ,バイオマーカーを用いて理想的な創薬を行うことができた実例は数少ない.Her2陽性症例に対するトラスツズマブや,ALK阻害剤などが代表例であるが,前述した血管新生阻害剤に関してはいまだに決定的なバイオマーカーがない.最近では国内外でもphase 0試験など新たな手法を用いて臨床開発を進める機運も高まっている.さらに後解析で判明するバイオマーカーのインパクトも十分に認知されるようになっていることから臨床試験の際に同時に組織を回収することは先端施設ではもはや常識となっている.FDAの号令のように従来の臨床試験が「改革」され創薬がスピードアップしたとはいえない.しかし最近では各研究者(臨床医,基礎研究者,製薬企業)が個々の技量を向上させたうえでタイアップすることによる成果は得られつつある.4さいごに・日本のバイオマーカー研究の現況日本国内ではドラッグラグに代表される国内の臨床試験,新薬承認に関する非効率性が指摘されている.いまだに高額な研究費などが問題になるため国際的な臨床開発から敬遠される傾向もある.しかし日本に多い疾患である胃癌の臨床開発については関係者たちの死にもの狂いの努力により日本の影響力は大きくなってきている.一方,胃癌同様に発症例の多い肝細胞癌の開発に関しては残念ながら,バイオマーカーと連動した早期臨床開発においては完全に「蚊帳の外」という状況である.われわれは医療レベルを世界標準に保つためには研究,臨床開発レベルでも積極的に国際競争に参加し,時には協調し世界規模で連携していくことが必要である.各業界で日本にて発見された知的財産の喪失が指摘され,「死の谷」に落ち,「ダーウィンの海」に沈む,とまで表現されている.つまり有望なシーズや科学的な手法を応用・製品化にもち込むプロセスの認定不足と予算不足・連携不良ということである.がん領域に限定した問題ではないため課題も多い.各領域の専門家たちが学術的に献身的態度で,より高いレベルのゴールを目指す必要があるのであろう.Current Therapy 2011 Vol.29 No.12 831151