カレントテラピー 29-12 サンプル page 30/42
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概要:
薬物治療における分子腫瘍マーカー慶應義塾大学医学部消化器内科講師浜本康夫1はじめにバイオマーカーを利用することは,より安全で有効な医薬品またはバイオテクノロジー応用医薬品の利用可能性を促進し,用量選択....
薬物治療における分子腫瘍マーカー慶應義塾大学医学部消化器内科講師浜本康夫1はじめにバイオマーカーを利用することは,より安全で有効な医薬品またはバイオテクノロジー応用医薬品の利用可能性を促進し,用量選択に指針を与え,それら医薬品のリスク・ベネフィット特性を改善できる可能性がある.・「広義のバイオマーカー」と「狭義のバイオマーカー」一般にバイオマーカーは,「正常な生物学的過程,発病の過程,もしくは治療介入による薬理学的反応を反映する,測定および評価可能な特性」と定義されている.この定義によると,血圧,心電図,血液生化学検査値などもバイオマーカーである.がん領域でも,「広義のバイオマーカー」はすでに臨床の現場で各種画像診断,組織診断,腫瘍マーカーなどとして広く用いられている.一方,近年盛んに議論ならびに研究を推奨され,なおかつ投資・整備・計画・実施されているバイオマーカーは抗がん薬の効果と副作用を予測することにより分子標的治療薬の開発を効率的に行う試みを対象としていることが多い.本稿では,この「狭義のバイオマーカー」研究が注目されるようになった経緯および,がん薬物療法における現状を,代表的な事例をもとに概説する.・創薬・新薬開発に対する無知・偏見とバイオマーカー研究に関する誤解について「狭義のバイオマーカー」と限定して解説する理由には創薬のプロセスに関する基礎知識と経験がないと現状の理解が困難なためである.新薬開発に携わる関係者は,実はきわめて一部である.本誌の大部分の読者は創薬に関して経験がないために偏見や大きな誤解があると考えられる.これらの誤解は,実は専門家同士でも問題となっており相互の連携不良はバイオマーカー研究においては致命的となる.2バイオマーカー研究の隆盛と問題点・「米国食品医薬品局(FDA)の推奨」と「分子標的薬剤の増加」がん治療におけるバイオマーカー研究の分水嶺となったのは2004年の米国食品医薬品局から出された勧告である.この勧告で「改革か,停滞か?」という印象的なフレーズとともに医薬品開発における従来の評価方法の不備が開発失敗や開発期間の長期化・硬直化を招いていることを指摘し,バイオマーカーの積極的利用による理論的創薬に転換させることで創薬プロセスのボトルネック改革を進めることを強く推奨している.古典的な臨床試験のような第Ⅰ相試験,Ⅱ相試験を経てⅢ相試験というプロセスで結論を出すという保守的なスクリーニングを続けるだけでは,結局は平均的に有効な抗がん剤しか発見することができないので最新の分子生物学の知識を駆使し,創薬において劇的な効果の得られる「特効薬」をみつけようという発想である.FDAはその後も2006年にバイオマーカーを利用した効率的な治療薬の創薬と活用,診断への応用に関する勧告を出し,さらに,米国癌学会(AACR),米国国立がん研究所(NCI)で共同しワークショップや委員会を形成し,バイオマーカー研究による臨床開発促進を推進している.第二の重要な因子としては約10年前より急激に,がん薬物療法の開発の主流が今までのDNAに直接ダメージを与える「殺細胞性抗がん剤」から,がん細胞の原因と考えられる分子に作用する,いわゆる「分子標的薬剤」にシフトしたことが挙げられる.早期臨床試験(phaseⅠ)の段階でターゲットとなる分子と候補である薬剤の間には,「仮定の検証」,すなわちproof of principle(PoP)を実証することが必要であり,そのためにはバイオマーカーの探索および確立が要求されるのである.そし821150