カレントテラピー 29-12 サンプル

カレントテラピー 29-12 サンプル page 24/42

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特集●分子腫瘍マーカー―治療標的と経過指標として胞もきわめて高い感受性をもち得る.肺上皮細胞が炎症時にEGFR阻害剤に大変感受性が高いのがその一例といえる7).このような重篤なオンターゲット作用は臨床での....

特集●分子腫瘍マーカー―治療標的と経過指標として胞もきわめて高い感受性をもち得る.肺上皮細胞が炎症時にEGFR阻害剤に大変感受性が高いのがその一例といえる7).このような重篤なオンターゲット作用は臨床での使用によって初めて認識されることも多い.低分子薬の副作用を考えていくうえで正常細胞の分子標的阻害による副作用(オンターゲット作用)を忘れてはならない.●Ⅲフィラデルフィア染色体陰性の骨髄増殖性疾患へのアプローチ:JAK2阻害剤の開発8)?10)JAK2キナーゼ(JAK2)の恒常的活性化を示すJAK2V617F変異体はフィラデルフィア染色体陰性(Ph?)の骨髄増殖性疾患,真性赤血球増加症,本態性血小板血症,原発性骨髄線維症(myelofibrosis:MF)を引き起こすことが複数の研究グループによって明らかにされた.JAK2はエリスロポエチン(EPO)受容体,トロンボポエチン(TPO)受容体,インターロイキン3(IL -3)受容体,インターロイキン5(IL -5)受容体,顆粒球単球コロニー刺激因子(granulocyte macrophage colony -stimulatingfactor:GM-CSF)受容体にホモ二量体として会合し,造血細胞のシグナル伝達に重要な役割を果たすキナーゼである.JAK2には免疫応答や炎症反応にきわめて重要な役割を果たしているJAK1,JAK3,TYK2という構造的に高い保存性を有する同族のキナーゼが存在する.これらは常にJAK1/JAK2,JAK1/JAK3,JAK1/TYK2のようなヘテロ二量体として存在している.さまざまなサイトカイン受容体に会合するJAKに関して表2に示す.JH2ドメインというキナーゼの活性化を制御する偽キナーゼ部位のアミノ酸置換であるJAK2V617F変異体は下流の転写因子STAT5を活性化させサイトカイン非依存性の増殖とPh?の骨髄増殖性疾患のほぼすべての症状を実験動物に誘導する.その後の研究によりJAK2V617F変異体以外にもJAK2の恒常的活性化を誘導するJAK2T875N変異,JAK2ΔIREED変異,エクソン12変異体群の存在が報告され,JAK2の活性化と疾患との関係がさらに明らかになった.これらの一連の研究成果からJAK2はPh?の骨髄増殖性疾患の分子標的となり得ることが示唆された.現在開発中のJAK2阻害剤を表3に示す11)?18).これらのJAK2阻害剤はATPと競合し,生化学的にJAK2とJAK2V617F変異体両方の活性を強力に阻害する.その結果,JAK2V617F変異体によって誘導されるSTAT5のリン酸化や細胞の増殖,生存の延長が抑制される.しかしながらJAK2V617F変異体をもつ細胞の増殖はJAK2阻害剤への感受性が高いことが複数のグループから報告されている.JAK2V617F変異体をもつ細胞が正常細胞よりJAK2の活性化シグナルへの依存が高いか,またはJAK2阻害剤が細胞内ではJAK2V617F変異体をより強力に抑制するなどの可能性が考えられる.JAK2阻害剤の細胞内における作用機序をさらに詳細に調べていく必要がある.多くのJAK2阻害剤が骨髄増殖性疾患のなかでも重症度の高い原発性骨髄線維症もしくは真性赤血球増加症や本態性血小板血症後の骨髄線維症に対して臨床治験中である8).骨髄線維症は腫瘍細胞の増殖による骨髄線維化のため正常な造血が障害される疾患で,著明な貧血と髄外造血による脾腫ならびに白血球増多と血小板増多を示す.全身倦怠感,寝汗,掻痒感,発熱,体重減少といった全身症状を伴う.JAK2阻害剤を用いた治療開始から2?3カ月の早期より,著しい脾腫の低下とそれに伴う食欲の増加,体重の増加,掻痒症や寝汗の減少,全身倦怠感の低下,1日の活動の増加,といった全身症状の著明な改善が認められた.骨髄線維症ではさまざまな炎症性のサイトカインや増殖因子の過剰産生が認められる.JAK1とJAK2を強力に抑制するRuxolitinib(INCB018424)は炎症性サイトカインや増殖因子の過剰産生を著明に改善した.この改善はRuxolitinibの投与によるSTAT5のリン酸化抑制との相関が認められている.しかし一方でJAK2に選択的なTG101348を投与された患者においては,そのような効果は認められていない.炎症性サイトカインや増殖因子の過剰産生がJAK2V617Fの発現とも相関しないことから,炎症性サイトカインや増殖因子の過剰産生の抑制はJAK1の阻害によるものと推測されている.興味あることにINCB018424投与群では投与中断後Current Therapy 2011 Vol.29 No.12 711139