カレントテラピー 29-12 サンプル page 22/42
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概要:
特集●分子腫瘍マーカー―治療標的と経過指標として多くの患者に使用されている4).本稿では分子標的を阻害することを狙って開発された低分子薬について現在その半数近くを占めるキナーゼ阻害剤に焦点を当て,なか....
特集●分子腫瘍マーカー―治療標的と経過指標として多くの患者に使用されている4).本稿では分子標的を阻害することを狙って開発された低分子薬について現在その半数近くを占めるキナーゼ阻害剤に焦点を当て,なかでも近年注目を集めているJAK2キナーゼ阻害剤の開発の現状を中心に紹介する.●Ⅱ低分子薬による分子標的の阻害とその選択性低分子薬は分子標的と複合体をつくることで酵素反応や基質との結合を阻害する.そのため低分子薬と結合できるポケット状もしくは溝状の部分構造を分子標的上に有することが必須条件となる.ポケット状もしくは溝状の部分構造は酵素反応や分子標的の活性化に重要な役割を果たしている.低分子薬はその部分の構造と分子間力を介して密に結合する.キナーゼの場合はN末部のベータシートからなる部分とC末部のアルファヘリックスからなる部分の間に深いポケット状の構造がある.この部分がアデノシン三リン酸(ATP)や基質と結合しリン酸化反応を担う活性部位を形成している.キナーゼ阻害剤の多くは活性部位のヒンジ部やゲートキーパーといわれる溝の基底部分,あるいは活性部位を形成する重要なループ構造と結合する.またキナーゼ阻害剤の結合にはATPと競合する場合とそうでない場合がある.イマチニブとAblの結合を図に示す.分子標的に対する選択性を高めることは副作用を少なくするために大変重要である.低分子薬は小さいがゆえに分子標的以外のタンパク質,例えばさまざまなトランスポーターや各種受容体または肝臓内の薬物代謝酵素などと密接な分子間結合をもち得る.したがって低分子薬開発の初期段階からオフターゲット試験によって分子標的に対する選択性が検討される.またほとんどの場合,分子標的には多くの同族の分子が存在するので,それに対する選択性も検討する必要がある.キナーゼの場合,ヒトゲノムに約500種のキナーゼが知られており,各々のキナーゼが正常細胞で重要な役割を果たしている.キナーゼの活性部位は約500種のキナーゼ間で高い保存度を有しているため,ひとつのキナーゼに対して選択性の高い低分子薬を開発することはきわめて難しい.しかしながらキナーゼ間で保存度の低い活性部位のアミノ酸や活性部位のわずかな立体構造,帯電の違いなどを利用して選択性を高めることは可能である.選択性を上げる目的で分子標的の活性部位の立体構造を利用して低分子薬の設計を試みることが多い.これまでに多くの低分子薬とそれぞれの分子標的との結晶構造が解析されている.立体構造を利用した方法は親和性や選択性を検討するのに大変有効な方法である.しかし忘れてはならないのは結晶構造解析やそれを用いた低分子薬の結合の推測は分子標的が結晶をつくりやすい条件下での分子標的単独の立体構造に基づいているということである.結晶構造解析では細胞内で起こりえる分子標的の動的な変化は全く考慮されていない.また細胞内ではさまざまな分子が分子標的に会合しその活性や活性部位の構造に影響を与えている.そのために細胞のなかでの分子標的の立体構造は結晶解析で得られる構造とは異なる可能性がある.したがって立体構造を利用した低分子薬の設計は細胞を用いた試験や生化学的な検討と併せて行われる必要がある.市販されているキナーゼ阻害剤のなかではBcr -abl阻害剤イマチニブや上皮成長因子受容体(epidermalgrowth factor receptor:EGFR)阻害剤エルロチニブが比較的選択制の高い阻害剤として挙げられる.選択性の高い低分子薬は一般的にその副作用も低い.しかしながら,選択性の高い低分子薬はその分子標的との結合を一部のアミノ酸に依存することから薬剤耐性の変異体を生じる可能性も高くなる.実際にイマチニブに対しては多くの薬剤耐性Bcr -abl変異体が報告されており,選択性を低くデザインされたダサチニブやBcr -ablに対しての親和性を高めたニロチニブが多くのイマチニブ薬剤耐性変異体に対して使用される6).これまでの多くの研究が示すように癌細胞においては,いくつもの遺伝子異常が集積している.特に悪性度が高くなるにつれて多くのシグナル伝達分子の異常が認められる.したがってダサチニブやスニチニブ,ソラフィニブなど,副作用は強くても多くのキナーゼを抑制する選択性の低い低分子薬が良好な治療成績を収める場合もある.このように現時点では選択性の高い低分子薬が必ずしもよいとはいい切れない.しかしながら選択Current Therapy 2011 Vol.29 No.12 691137