カレントテラピー 29-11サンプル page 10/32
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EML4塩基性HELPWDEML4-ALKALK膜貫通ドメインキナーゼ図1EML4-ALK融合キナーゼの発見EML4タンパクは塩基性領域,HELPドメインおよびWDリピートからなるが,そのWDリピート領域の途中でALKキナーゼの細胞内領域と融合....
EML4塩基性HELPWDEML4-ALKALK膜貫通ドメインキナーゼ図1EML4-ALK融合キナーゼの発見EML4タンパクは塩基性領域,HELPドメインおよびWDリピートからなるが,そのWDリピート領域の途中でALKキナーゼの細胞内領域と融合したEML4 -ALKタンパクが非小細胞肺癌で生じていることが明らかになった.〔参考文献3)より引用改変〕末端側約半分をコードし,3’側は受容体型チロシンキナーゼALK(anaplastic lymphoma kinase)の細胞内チロシンキナーゼドメインをコードしていたのである(図1)3).さらに驚いたことに,本来EML4とALK遺伝子はヒト2番染色体短腕内の近い場所(12Mbp離れている)に互いに反対向きに存在するのである.したがってEML4-ALK融合遺伝子が作られるためには,この12Mbpの領域が2p内で非常に小さな逆位を形成する必要がある.固形腫瘍は一般に染色体転座はまれであるといわれてきたが,われわれが腫瘍ゲノムを基質としてEML4遺伝子とALK遺伝子上にそれぞれプライマーを設置してPCRを行ったところ単一の産物が得られ,その塩基配列を解析することでEML4遺伝子とALK遺伝子内での切断点・融合点が決定された.すなわち実際に肺癌細胞において2p内の微少な逆位が生じていることが確認されたのである.EML4タンパク内には二量体化に働くcoiled-coilドメインが存在するため,EML4 -ALKは恒常的に二量体化され,活性化されて発癌を誘導することも明らかになった.ⅢEML4-ALKに対する新しい分子標的療法慢性骨髄性白血病においてABLチロシンキナーゼ遺伝子とBCR遺伝子が融合した結果,活性型チロシンキナーゼBCR -ABLが産生されることが知られている.慢性骨髄性白血病の発症にはBCR -ABL活性が中心的な役割を果たすが,このチロシンキナーゼ活性を阻害する低分子化合物イマチニブは今日の慢性骨髄性白血病の第一治療選択薬となっている4).すなわち発癌の中心的役割を担う異常チロシンキナーゼを抑制することはきわめて有効な分子標的治療となるのである.では実際に,BCR -ABLと同様にEML4 -ALKも肺癌における新たな治療剤のターゲットとなるのであろうか?われわれは,EML4 -ALKキナーゼが実際の生体で肺癌の直接的な原因となることを証明する目的で,同キナーゼを肺胞上皮細胞特異的に発現するトランスジェニックマウスを作成した.Surfactant proteinC(SPC)は肺胞上皮にのみ発現する遺伝子であり,これまでそのプロモーターフラグメントがさまざまな肺癌モデルマウスの作成に用いられてきた.そこでわれわれもSPC遺伝子プロモーター下流にEML4 -ALK cDNAを接続した発現ユニットを作成し,これを用いてトランスジェニックマウスラインを複数樹立した5).驚くべきことに,これらマウスはいずれも生後わずか数週で両肺に数百個の肺腺癌を多発発症したのである(図2).すなわちEML4 -ALKはきわめて強力な癌遺伝子であり,このマウスにおける肺癌発症時期の早さを考えると,同遺伝子陽性の肺癌症例における主な原因遺伝子である可能性がきわめて高いと予想される.ではそのような肺癌発症マウスに対してALKの酵素阻害薬を投与すると治療効果はあるのだろうか?われわれは経口摂取可能なALK特異的阻害薬2,4 -pyrimidinediamineを同肺癌発症マウスに1日1回投与し,その治療効果を系時的CTスキャンにて評価した.図2に示すように,治療開始前には左肺に存在した巨大な2個の腫瘍が,わずか25日間経口接取するだけでほぼ消失していることがわかる.ほかのマウスでも同様な治療効果が確認された5).すなわちEML4 -ALK融合キナーゼを標的とする治療581030