カレントテラピー 29-10 サンプル page 8/32
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特集心不全の診断と治療―病態の解明から治療法のエビデンスまで心不全の病態生理と診断神経体液性因子による循環系の調節*添田恒有1*2・斎藤能彦abstract心不全とは,各種心疾患の代償不全状態で,心臓のポンプ機....
特集心不全の診断と治療―病態の解明から治療法のエビデンスまで心不全の病態生理と診断神経体液性因子による循環系の調節*添田恒有1*2・斎藤能彦abstract心不全とは,各種心疾患の代償不全状態で,心臓のポンプ機能が低下し,肺・体静脈系のうっ滞をきたした病態である.心不全の際には,レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAA系)や交感神経系などの心臓刺激因子とナトリウム利尿ペプチド(atrial natriuretic peptide:ANP)に代表される心臓保護因子が動員される.心機能が低下すると,まず心臓刺激因子が活性化され,心拍出量を増加させるとともに,血管を収縮させ主要臓器への還流圧を高め,血流を維持する方向に働く(代償期心不全).それに応じてANP系も活性化され,両者のバランスは保たれるが,さらに心不全が進行すると心臓刺激系が過剰に活性化され,悪循環に陥る(非代償期心不全).慢性心不全の治療は過剰に活性化された心臓刺激系をコントロールし,心臓保護因子とのバランスを調和することにあり,神経体液性因子の動態に併せてストラテジーを計画することが今後の心不全の予後を改善していくものと思われる.Ⅰはじめに心不全とは,各種心疾患の代償不全状態で,心臓のポンプ機能が低下し,末梢主要臓器の酸素需要量に見合うだけの血液量を拍出できない状態であり,肺・体静脈系のうっ滞をきたし日常生活に障害を生じた病態と定義される.近年,心不全の病態生理として,心拍出量の低下に伴い生じる各種代償機構の働きが注目されている.心不全では,日常生活が妨げられるだけでなく,致死性不整脈の出現や突然死の頻度も高く,その生命予後は必ずしもよいものではない.レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAA系),交感神経系,バソプレシン,エンドセリン(ET),種々のサイトカインが心不全で賦活化され,水,ナトリウムを貯留させ血圧を維持するように働く.しかし,慢性心不全では,これらの代償機構は過剰に働き,前負荷および後負荷を増大させて心機能を悪化させることとなる.1983?1984年にかけてDeBold 1)やKangawaら2)によってラットとヒト心房組織から心房性ナトリウム利尿ペプチド(atrial natriuretic peptide:ANP)が発見された.続いてそのファミリーである脳性ナトリウム利尿ペプチド(brain natriuretic peptide:BNP)やアドレノメデュリン3)などの循環ペプチドも発見された.これらの循環ペプチドは心,腎および血管に作用し,心保護に重要な役割を果たしている.心臓を中心とした循環系は,RAA系や交感神経系に代表される心臓刺激系とANP系に代表される心保護系の異なる2つの要因が複雑かつ巧妙に作用している.特に慢性心不全の病態ではこれらの神経体液性因子による調節機構の破綻と考えられるようになってきた.*1奈良県立医科大学循環器・腎臓・代謝内科助教*2奈良県立医科大学循環器・腎臓・代謝内科教授8888