カレントテラピー 29-10 サンプル page 23/32
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特集心不全の診断と治療―病態の解明から治療法のエビデンスまでKey words心筋再生(線維芽細胞から心筋細胞への分化転換)慶應義塾大学医学部/臨床分子循環器病学講座助教/循環器内科学教室助教村岡直人慶應義塾大....
特集心不全の診断と治療―病態の解明から治療法のエビデンスまでKey words心筋再生(線維芽細胞から心筋細胞への分化転換)慶應義塾大学医学部/臨床分子循環器病学講座助教/循環器内科学教室助教村岡直人慶應義塾大学医学部/臨床分子循環器病学講座講師/循環器内科学教室講師/科学技術振興機構CREST家田真樹慶應義塾大学医学部/循環器内科学教室教授福田恵一心臓は,心筋細胞のみならず,線維芽細胞,血管内皮細胞などさまざまな種類の細胞より構成され,細胞数でみると心筋細胞は心臓全体の約30%で,残りの約50%以上は心臓線維芽細胞で占められている.心筋細胞は自己複製能がないため,心筋梗塞,心不全では心筋細胞数が減少し,それに代わり線維芽細胞が増殖することで損傷部位を線維瘢痕化し,心機能は低下する.近年,心臓再生研究ではiPS細胞をはじめとした幹細胞を心筋細胞に分化させ,それを心臓に移植し心機能を回復させる方法が活発に研究されている.しかし,幹細胞の使用には目的細胞への分化誘導効率や未分化細胞混入による腫瘍形成の可能性,移植細胞の生着性など,依然さまざまな問題が指摘されている.そこで,それらの問題を解決すべく心臓内に存在する線維芽細胞をiPS細胞を介さずに,遺伝子導入により直接心筋細胞へと転換できないかという発想のもと,本研究室の家田らはinducedcardiomyocytes(iCM細胞)の作成に成功した.まず,成熟分化した心筋細胞でのみ緑色蛍光タンパク質(green fluore scent protein:GFP)を特異的に発現するトランスジェニックマウスを利用し,線維芽細胞から心筋細胞への転換を可視化した.胎児期心筋細胞に特異的かつ心臓形成に重要な14の遺伝子を候補とし,すべての候補遺伝子を心臓線維芽細胞に導入したところ,導入後1週間でGFPを発現する細胞を認め,心筋細胞への分化が示唆された.そこで心筋リプログラミング因子同定のため,14の遺伝子からひとつずつを除いた組み合わせで遺伝子導入を行ったところ,14のうち3遺伝子(Gata4,Mef2c,Tbx5)の組み合わせで約17%の線維芽細胞がGFPを発現し,3因子の同時導入が心筋誘導に必須と考えられた.この線維芽細胞より誘導された心筋様細胞をiCM細胞と名づけた.次にiCM細胞と心筋細胞を比較したところ,iCM細胞ではα-アクチニン,心筋トロポニンTなどの心筋特異的タンパク質を発現しており,心筋に特徴的とされる横紋筋構造も観察された.また,全遺伝子の発現パターンを比較したところ,iCM細胞は心筋細胞に類似しており,逆に線維芽細胞とは全く異なっていた.さらに生理的機能では,細胞内Caの自律的変化,心筋に特徴的な活動電位や自律的拍動を認め,機能的にも心筋に類似した細胞であることが確認された.また,線維芽細胞から誘導されたiCM細胞はほぼすべてiPSなどの未分化細胞を介していないことも確認された.このようにして,心臓発生に重要な3因子の同時導入により線維芽細胞から心筋様細胞を直接作成できることを発見した.この方法は従来のiPS細胞を用いた心筋再生法に比べて,1心筋作成が簡便であり時間も短縮できる,2未分化細胞を経由せず腫瘍の発現リスクが少ない,3心臓内に存在する線維芽細胞を直接心筋に転換できれば細胞移植が不要となる,などの多くの利点を有している.しかし,生体内での高効率な遺伝子導入法の確立やヒト細胞での心筋作成などの課題が残されている.今後は,これらの課題が克服され,iPS細胞を用いた心筋再生法と協力することで臨床応用の早期実現が期待される.76956