カレントテラピー 35-8 サンプル

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Current Therapy 2017 Vol.35 No.8 71代替療法785低下した「腎じん虚きょ」の状態を呈している.漢方でいう腎とは,生下時に親から受け継いだ生命エネルギーを蓄える臓腑のことである.加齢や疾病により腎虚の状態となると,全身倦怠,気力低下,冷え,痛み,しびれ,頻尿,脱毛,視力低下などの症状がみられる.その徴候は,下腹部の軟弱無力と知覚鈍麻(臍下不仁)である.腎虚の特効薬は「補腎剤」であり,一般には八味地黄丸が頻用されるが,がん患者に対しては,血管拡張作用や免疫賦活作用も期待できる牛車腎気丸が第一選択薬となり,通常「(補剤+牛車腎気丸)×3回/日」の形で用いられる.3 「?お 血けつ」を改善する駆く?お血けつ剤ざい?血とは,漢方医学的な「血」の流れが滞った状態である.その症状は,頭痛,腹痛,冷え,ほてり,浮腫,不眠,不安,便秘,皮疹,月経困難症など多彩である.がん患者のほとんどに?血がみられ,その徴候は暗紫色の口唇や舌,皮膚面の細血管の拡張(細絡),腹診における臍傍圧痛である.?血の特効薬は「駆?血剤」であり,三大駆?血剤(桂枝茯苓丸・桃核承気湯・当帰芍薬散)が頻用される.その他の駆?血剤として,通導散,温経湯,三黄瀉心湯,大黄牡丹皮湯などがある.駆?血剤は通常眠前1回で投与され,桂枝茯苓丸(1- 2包)は不眠に,また桃核承気湯(1- 3包)は頑固な便秘に著効する.舌の歯圧痕や下肢の浮腫など(「水毒」)を伴う場合は(桂枝茯苓丸+当帰芍薬散)を投与する.4 「冷え」を改善する附ぶ子し末がん患者では,筋肉量の減少(サルコペニア)により体熱産生が低下し,さらに「気・血・水」の流れが停滞しているため,全身・下半身・あるいは四肢末端が冷えている.冷えにより痛みやしびれが増強し,免疫力が低下してがんの転移や再発が促進されるため,冷えの治療は重要である.冷えの原因として,食生活(果物,酢,生野菜,ジュース,牛乳,ワイン,ビール,炭酸飲料などの摂取,獣肉や脂濃い食物の多食)や,日常生活(運動不足,ストレス,薄着の習慣,冷房など)があるため,生活指導も重要である.がん患者の冷えを改善するためには,補剤・補腎剤・駆?血剤などだけでは不十分で,通常強力な温補作用のあるトリカブトを加熱処理した「附子末」が必要となる.附子末の量は1日量1.5g(0.5g×3回)で開始し,副作用(動悸・不整脈・顔面潮紅・頭痛)の発現に留意しながら,冷えが改善するまで附子末を漸増して至適量を決定する.附子末は単独で投与することはなく,通常補剤,補腎剤,芍薬甘草湯などに加えて用いる.冷えを訴える肺がん患者に対する定番処方は,(人参養栄湯+牛車腎気丸+附子末0.5~2g)×3回である.手足のしびれが主訴になる場合には補剤は用いずに,(芍薬甘草湯+牛車腎気丸+附子末0.5~2g)×3回とすべきことが多い.Ⅴ 肺がん患者の個別症状に対する漢方治療肺がん患者の抗がん剤による副作用や後遺症は多いが,ここでは「漢方薬+α」を試みる価値があるいくつかの病態に絞って解説する.1 全身倦怠・気力体力の低下抗がん剤による全身倦怠感と気力と体力の低下を訴える患者は多い.補剤に加え,補腎剤,駆?血剤,附子末を組み合わせると,多くの患者でだるさや気力体力の低下が改善する.定番処方は,(人参養栄湯+牛車腎気丸)×3回であり,冷えを訴える場合は(人参養栄湯+牛車腎気丸+附子末0.5~2g)×3回を投与する.通常眠前に駆?血剤(通常は桂枝茯苓丸,便秘があれば桃核承気湯)を投与する.肺がん患者の多くは,息切れや咳などの呼吸器症状を呈するため,三大補剤のなかでは人参養栄湯が有効な場合が多いが,実際には補中益気湯や十全大補湯が奏効する患者もあるため,投与後に効果不十分であれば,補剤を変更する必要がある.2 食欲不振・体重減少上記1の定番処方で自律神経機能が回復し食欲不振も改善することが多いが,改善しない場合は胃の排出障害が原因であることが多い.この状況は,機能性ディスペプシアの一種とみなすことができるため,神経筋接合部のアセチルコリンを増加させて胃運動を