カレントテラピー 35-8 サンプル

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50 Current Therapy 2017 Vol.35 No.8764合器であるが,漏斗胸手術で有名なRavitchがソビエトから北米,世界への自動縫合器の拡散に重要な役割を果たしていたことはほとんど知られていないのではないか.筆者も本稿執筆にあたり多くの文献を読んだが,Ravitchの自動縫合器の胸部外科手術への拡がりの貢献は最も印象深い史実のひとつであった.Ravitchは在米ロシア人2世であったので,ニューヨークで生まれ育ったのだがロシア語を理解し話すことができた.1958年にソビエトに手術の見学に行き,胸部外科医Amosovが肺の手術で自動縫合器を使うのを見て衝撃を受けた.Ravitchが訪問したときにはAmosovはそれまで200症例以上の肺切除で自動縫合器を使っていたのであった13).病院を通してその自動縫合器を購入しようとしたが断られた.鉄のカーテンの内側から自動縫合器を米国に持ち帰るのをあきらめかけたが,たまたま自動縫合器をつくっている工場を見つけて,ロシア語ができることを利用し自ら交渉,現金(440ルーブル)で購入し米国に持ち帰った.この熱心さは是非とも模範としたいものである.Ravitchは米国に帰国しJohns Hopkins大学のGrand roundsでロシアから持ち帰った自動縫合器を用いて,献体の肺を使い気管支を切離,閉鎖するデモンストレーションを行った.そこで重鎮の外科医から「便利だけど大きくて重すぎる(awfully big and heavy).僕は手縫いのほうが好きだな」と言われてしまう.そこでRavitchは奮起し企業と共同開発を続けついに1967年に軽量化し実用に耐える自動縫合器製品を商品化した.この製品化により共同開発した企業であるUnited States SurgicalCorporationの年間売上げを35万USドルから1998年までに10億USドルに増加させることに貢献した.現在の自動縫合器は先端が細く,剥離範囲が狭くても血管を切離することが以前と比して容易になっている.今後はさらに小さい先端部,多様な角度に動く先端部をもつ自動縫合器が望まれる.安全性を確保した新たな器具の出現を望むものである.Ⅴ 低侵襲手術現在低侵襲手術の定義はない.臨床的には,conventionalな方法に比べて術後の生活の質(QOL)が良い,合併症が少ない,術後の回復が早い,ということになればその手術は低侵襲であると考えられるのではないか.一方肺がんの手術においては肺がんの根治性,手術の安全性は最も重要な2つの因子である.この2つの因子を担保しながら低侵襲である手術を証明した報告は現在までない.近年胸腔鏡下手術が多くの施設で採用され実臨床では行われてきているが,video-assisted thoracoscopic surgery(VATS)の定義は実は曖昧である.欧米ではモニター視のみを用いる完全鏡視下手術をVATSと呼ぶが,直視とモニター視を併用する手術も日本ではVATSと言われることがある.ただこの2つの方法で皮膚切開の長さはあまり変わらない.肺がんに対するVATSがconventionalな開胸手術と比べて予後,QOL,安全性において同等であるとする肯定的な論文報告は多いが,単施設での後方視的な解析に基づくものが多く,現状では一般化できているとは言えない.肺がん手術においては肺動脈からの出血は大事故に至る可能性があるため,出血時の対応ができる術式が必要である.2016年版の『肺癌診療ガイドライン』では臨床病期Ⅰ期非小細胞肺がんに対する胸腔鏡下肺葉切除はグレードC1(科学的根拠は十分でないが,行うことを考慮しても良い)である.筆者は米国で所属していた大学病院の胸部外科がロボット手術を導入する時期に臨床フェローとして丁度トレーニングを受けていたために,胸部外科ロボット手術の導入にかかわることができた.術者のロボットによる肺葉切除手術のlearning curveは通常の胸腔鏡による肺葉切除に対するlearning curveと変わらないと言う印象をもった.しかしながら術者の「手」による感覚がない状態での手術は不安であった.現在は国内でも多くの施設で肺がんに対してもロボット手術が行われ始めている.海外のロボットによる肺がん手術の論文は多く発表されているが,国内での症例集積はこれからであり,今後論文が出てくるであろう.近年海外では単孔式胸腔鏡下肺葉切除が報告され,数多くの単孔式手術を行う施設もある14).また局所麻酔,非挿管下での肺葉切除を行う報告も散見されるようになっている14).呼吸器外科医の新しいこと