カレントテラピー 35-6 サンプル

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Current Therapy 2017 Vol.35 No.6 9511限されていることなどが指摘されている.このように,脳血管障害を原因として生じる脳卒中片麻痺は,治療起点が運動神経系の複数箇所にわたって点在している.そのため,治療介入手法についても,薬剤による内因性再生能の増強,神経や血管を再生する幹細胞移植による外来性再生能の付与,電磁気などを用いた神経系への物理刺激あるいは外骨格ロボットによる機械的刺激による神経活動の活性化など,多岐にわたっている.身体運動の生成プロセスとその学習プロセス,ならびにそれらの病的状態を正しく理解し,異なる治療起点に対して至適な介入を組み合わせる集学療法の確立が求められている.Ⅱ 神経機能の可塑性と運動学習の考え方神経科学の世界では,電気的な神経活動をとらえて解析する電気生理学的アプローチと,数理モデルに基づいて神経活動や行動の変化していくさまを解析する計算論的アプローチが,神経機能の可塑性や運動学習といった問題を主体的に扱ってきた.以下に,そうした基礎研究を通じて構造化されてきた,可塑性と運動学習の考え方を紹介する9).ただし,これらは必ずしも統合的に研究されてきたわけではないため,一方が他方の一部を内含している可能性もある.ここに示したコンセプトは,お互いが完全に独立な事象ではないかもしれないという点に留意されたい.1 使用頻度依存的可塑性一次運動野を含む運動神経系は,使用し続けることによってその活動特性が変容する.また,変容した結果はその後も一定期間保持される.このような性質のことを,使用頻度依存的可塑性という.ラットなどでは,神経間の接続部であるシナプスの信号伝達効率が神経活動依存的に変化し,その効果が長期にわたって保持されることが示されている.2 タイミング依存的可塑性物理的に離れた神経細胞集団が同期的に活動することで,両者間を繋ぐシナプスの信号伝達効率が変化する.このときの神経細胞活動は,随意的な活動でもよいし,外部から与えられた電気刺激などによって,強制的に誘導されたものであってもよい.このような性質のことを,タイミング依存的可塑性という.タイミング依存的可塑性は,異なる2つの神経細胞集団の間に生じる活動時間差に対して鋭敏な特性を有しており,一定以上の時間差があると,シナプス伝達効率は変化しない.また,活動の順番も大切である.神経信号が本来流れる順番で,神経細胞集団の活動が時間遅れをもって生じると,両者の間のシナプス伝達効率は高まるが,逆順で神経活動が生じると,シナプス伝達効率は逆に低下していく.3 報酬系を介した強化学習与えられた状況に対して,最適な行動をとるために必要な生体反応や戦略を獲得していくために用いられる学習則のひとつである.ある行動をとったとき,その結果が当初予見していた以上の報酬を得ることにつながった場合,選択したその行動を次もまた選択する傾向が強くなる.逆に,行動の結果が予想よりも低い報酬にしかつながらなかった場合は,その行動選択を避けるようになる.この繰り返しによって,ヒトは徐々に最適な行動パターンを習得するようになる.この学習則の特長は,「どのようにしたら最適な行動パターンが学習できるか?」という戦略情報をもっていなくても,結果的には最適な学習パターンを獲得することができる点にある(ただし反復回数は十分に多くなくてはいけない).このような意思決定モデルは当初,機械学習の分野から派生して生まれたが,げっ歯類を使った動物実験の結果,線条体に存在する神経細胞が予測誤差の大きさに相関する活動を示すことが明らかになり,脳の中にもこうした強化学習の仕組みが実装されていると言われるようになった.4 誤差学習自分が行った行為が目標からどの程度外れていたかを,視覚や体性感覚を通じて誤差として認識し,次に同じ運動をするときにできるだけこの誤差を減らせるように,あらかじめ運動計画を修正しておく過程のことを,誤差学習という.誤差の認識や修正は意識的に行われる場合もあれば,意識に上らないまま自動的に行われる場合もある.神経科学の世界で構築されてきたこのような可塑性と運動学習の考え方は,脳卒中後の病態脳に残存